時事通信労働者委員会                             
WORKERS' COMMITTEE OF JIJI PRESS  


「同意なければ配置換え」は労基法違反
裁量労働制巡り境社長に抗議、撤回要求


2024年3月25日
団体交渉報告 

 
時事通信労働者委員会は3月25日、時事通信社の境克彦社長の出席を伴う団体交渉を開き、主要記者クラブに所属する本社記者職に適用されている裁量労働制などを巡り協議した。労働基準法の改正により、社は4月から対象社員の同意を得ることが義務づけられたが、社は労働基準監督署に提出した従業員代表との労使協定に、同意しない場合は「別の業務への配置転換を行うことがあり得る」と明記した(労働者委はこの協定に賛同していない)。これは不同意を理由とする不利益取り扱いを禁止した改正労基法に違反しており、労働者委は「違法だ」と抗議し、同規定の撤回を要求した。
 
境社長は「(裁量労働制の適用に不同意なら)必ず配置換えを行うとは言っていない」と釈明する一方、「裁量労働制の適用に同意しなかったとなると、今のわが社の働き方で、外回りの記者にとって仕事が回りづらくなるのは目に見えている」と規定は正当だと強弁し、取り下げを拒否した。
 
しかし、裁量労働制が導入された2019年10月より前においても、記者職の現場では単純時間労働制の下で業務遂行に問題が生じたことはなく、境社長自身が編集局経済部などで取材記者を務めていた期間もそうである。「別の業務」とは、裁量労働制が適用されていない、主に取材記者以外の職場での仕事を意味する。記者職を志す社員にとって、配置転換は不利益取り扱い以外の何物でもない。
 
労働者委は「裁量労働制が適用されていなければ回らなくなる職場とは具体的にどの担務か」と質したが、社側は「可能性としてあるかもしれない」などと繰り返すのみで、例を挙げることすらできなかった。
 
さらに労働者委は「実際に適用に同意しなかった人はこれまで何人いるのか。個人は匿名でよい」と問うた。しかし社は、社員からの同意確認に際して公開を前提としていなかったことや、全体数を明らかにすることで他の社員の判断に影響が及ぶことが懸念されるとの理由を挙げ、開示を拒否した。いずれも開示を拒む正当な理由にはなっていない。社側のこうした態度は、不同意者が具体的に何人いるかを隠ぺいし、根本的かつ率直に働く環境について労使で議論することを避けたい意図の表れであり、不誠実の極みである。
 


実質賃下げの冬季一時金回答に抗議
大幅減収、経営責任を追及
サイトアクセス急減の主因、早期解明を要求


2023年12月14日
団体交渉報告 

 
時事通信労働者委員会は12月14日、冬季一時金などをテーマに時事通信社と団体交渉を行った。社は基本給の1.425カ月分(うち0.05カ月分はインフレ対応手当)を基本とするなどと回答した。前年同期比でインフレ対応分のみ増額となったものの、消費者物価指数(総合)が前年比3%程度の上昇が続く最近の情勢に照らせば実質賃下げとなる超低水準だ。労働者委は社の回答に強く抗議した。
 
社が一時金回答の背景として説明した9月中間決算によると、売上高は前年同期比6.4%減の73億円。金融商品情報サービスの減収やニュースサイト「時事ドットコム」の広告収入減などが響き、売上高の減少に歯止めが掛かっていない。営業損益は21億4900万円の赤字(前年同期は18億5600万円の赤字)、経常損益は保有する電通株の配当増があったにも関わらず6億9900万円の赤字(4億7400万円の赤字)と損失が拡大。純損益は7億900万円の赤字(4億900万円の赤字)だった。
 
通期(24年3月期)の売上高が仮に9月中間の実績を単純に2倍にした約147億円となった場合、1986年3月期以来の低水準となった前期(23年3月期)の157億円をさらに下回る。時事の売上高は通常、下半期の方が高くなる傾向にあることを考慮しても、事態は深刻である。労働者委は「減収は経営責任そのものだ」と抗議した。矢野英樹労務担当取締役は「赤字体質から脱却できていない責任は経営陣として痛感している」と陳謝した。
 
社は時事ドットコムの広告収入減について、ヤフーなどポータルサイトのニュース配信の競争が激化したことのほか、グーグル社が昨年9月に行った検索エンジンの仕様変更が影響している可能性があると説明した。
 
社は「実情はブラックボックスであり、不明な点が多い」としつつも、グーグル社が「偽ニュース」対策として信用性を精査する仕組みの中で、時事通信が複数のチャネルに同じニュースを配信していることが「重複コンテンツ」と認識され、検索結果の優先順位で劣ることにつながっている可能性があるとした。
 
もしもこれがアクセス減の主因であれば、取材現場から記事を日々、出稿している記者の責任では全くない。労働者委は社に対し、早急に主因を究明し、対策をとるよう求めた。
 
こうした諸問題は決して軽視できない。労働者委は境克彦社長の出席を伴う団交を要求し、経営責任を厳しく追及するとともに、改善策をただす方針だ。 
 


夏季一時金、低水準回答に抗議
インフレ支援、基本給のわずか0.05カ月分
社、売上高は記録的低水準、営業赤字は巨額―23年3月期


2023年7月18日
団体交渉報告 

 
時事通信労働者委員会は7月18日、夏季一時金などをめぐり時事通信社と団体交渉を開いた。社は労働者委の夏季一時金引き上げ要求に対し、支給額を基本給の1.425カ月分(インフレ対応一時金0.05カ月分を含む)をベースとすると回答。前年比でインフレ対応分のみわずかに増額となったが、歴史的低水準には変わりなく、昨今の物価上昇に照らせば実質、賃下げである。労働者委は社の回答に強く抗議した。
 
社は背景として、2023年3月期の決算を説明した。売上高は157億円と前期比4.8%の大幅減で、1986年3月期以来、37年ぶりの低水準に落ち込んだ。金融情報サービスの減収や、インターネット・ニュースの広告収入減などが響いた。損益面では、営業損失が36億1800万円(前期は29億3700万円)、経常損失は8億3000万円(7億9000万円)、純損失は7億9000万円(8億5000万円)。とりわけ本業の実力を示すとされる営業損益は、実に売上高の2割を超える巨額の赤字で、赤字の期間も24期連続とほぼ四半世紀にわたり、長期の低迷ぶりを如実に示した。
 
社はこれまで労働者委によるインフレ対応一時金要求を拒否していた。今回のインフレ対応一時金は基本給(1カ月分)の20分の1(5%)。消費者物価指数(総合)は昨年夏以降の各月に前年比3~4%台の上昇が続いており、社のインフレ対応一時金は社員の生活を支援する策としては弱過ぎる。労働者委は「これでは生活を支えていることに到底ならない」と抗議し、引き上げを求めたが、矢野英樹労務担当取締役は「30億円台の営業赤字を記録しており、ギリギリの努力の結果だ」と釈明した。
 
社は境克彦社長の就任(20年6月)から既に3年が経過したが、収益改善は兆しさえも見えない。労働者委は「普通の会社なら社長は責任をとって辞める」と指摘し、経営責任を追及した。矢野氏はこれに対し、「経営陣として責任を痛感している」と述べる一方、ニュースサイト「時事ドットコム・プラス」の有料化や企業のデジタル化支援、講演事業「内外情勢調査会」のウェブ版拡充などに向けた取り組みを挙げ、「挽回への下地は整ってきている」と経営改善に自信を見せた。労働者委は今後の経営動向を注視していく。
 
労働者委は「現在の低い売上高は論外だ」と批判した。矢野氏が社は研究機関と日本語ニュースの英訳に関する共同研究を行ってきたと説明したため、労働者委は社に対し、こうした取り組みを急ぎ、時事通信ニュースの英語版事業を世界的に展開することを真剣に検討するよう要求した。また、若者や外国人を含む読者層を拡大するため、サイト上などのニュース記事の漢字にルビを振ることができるようにすべきだとも訴えた。
 
一方、社が15年10月に強行導入した、中高年の一般社員の賃金を抑え、社員の所得格差を広げる人事・給与制度「役割等級制度」は20年度以降、人事評価の結果が、優良者と不良者が一定割合で分布する設計とかけ離れ、中上位に位置する社員が多い状況が続いている。役割等級制度は破綻していると言わざるを得ず、労働者委は同制度の撤廃と人事・給与制度の根本的な見直しを求めたが、社はこれを拒否した。
 


歴史的低水準の夏季賞与に抗議
社、23期連続営業赤字の体たらく
労働者委、厳しく経営を監視


2022年8月4日
団体交渉報告 

 
時事通信労働者委員会は8月4日、夏季賞与などをめぐって社と団体交渉を開いた。社は2022年3月期の売上高が前期比2.0%増の165億円、営業損益が23期連続の赤字となる29億3700万円(前期は25億1300万円の赤字)、経常損益が7億9600万年の赤字(11億700万円の赤字)、純損益が8億5100万円の赤字(23億88万円の黒字)だったことなどを受け、賞与支給額を基本給の1.375カ月分をベースとすると回答した。支給水準は前年比でわずかの上乗せとしたものの、長引く超低水準を脱しておらず、労働者委はこれに強く抗議した。

社は労働者委員会が要求した、中高年社員の賃金を押し下げ、社員の所得格差を広げる役割等級制度の廃止や、記者職に対する裁量労働制の廃止を拒否した。足下で進む物価高に対応した一時金の支給検討要求についても、社は早々と拒絶する姿勢を鮮明にしている。
 
22年3月期が小幅ながら増収となったのは、講演会事業「内外情勢調査会」でコロナ禍を受け前期に減額していた会員からの会費が一部回復したことや、五輪関連のニュースサービスの需要があった一時的要因が背景だ。金融情報サービスの苦戦など基調としての減収傾向は続いている。
 
6月に就任した矢野英樹取締役労務担当は赤字経営について「責任を痛感している」と述べる一方、支給額を前年より微増させた理由を「社員の働きに報いるため」と説明した。今後、増収基調への転換を目指し「デジタル分野などの新機軸にチャレンジしていく」とし、事業領域の拡大に取り組むと表明した。
 
その上で、近くニュースサイト「時事ドットコム」の読者メンバーシップを基本とする新制度をグランドオープンするほか、内外情勢調査会のウェブ版を併設する考えを示した。さらに傘下会社を設けた上で、企業のデジタル化支援事業に乗り出すとした。
 
労働者委は、賃金をはじめとする労働条件に影響を与える社の経営について引き続き厳しく監視の目を向けていく。
 


社、役割等級制の廃止要求を拒否
人事評価制度の崩壊明らかに
労働者委、社員の所得底上げ急務と訴え=春闘


2022年5月11日
団体交渉報告

 
時事通信労働者委員会は5月11日、2022年春闘要求をめぐり社と団体交渉を開いた。2015年10月に強行導入された人事・給与制度「役割等級制度」と、2019年10月に始まった記者職に対する「裁量労働制」の廃止要求に対し、社は拒否を回答。労働者委は2020、21両年の役割等級制度に基づく人事評価の結果に関し、社が設定した分布と異なり著しく中上位にシフトしていることを指摘、同制度が崩壊状態にあることを明らかにし、制度の廃止を求めた。最近のインフレを受けた臨時一時金の追加支給などの要求についても、社はことごとくゼロ回答を示した。労働者委は社の対応に抗議し、「社員の所得底上げが急務である」と訴え、修正回答を求めた。
 

評定結果、中上位に著しくシフト

社が2015年度から強引に導入した役割等級制度は、年ごとの人事評定の結果を示す「総合評語」を評価の高い順にSSからEまでの7段階に分け、それぞれの区分に位置付けられる社員の割合を設定した。
 
具体的には
SS(5%)
S(10%
A(20%
B(30%
C(20%
D(10%
E(5%
である。
 
総合評価は、社員が一定の等級に達すると、SSの6号俸を筆頭に役割給が上昇する仕組みで、Eの場合のみ据え置きとなる。賞与については役割等級に応じて、翌年度の支給額が増減。中位のBよりも上位の区分にはSSが1.4倍などと上乗せされる一方、Bより下位の区分は支給額がカットされ、最下位のEの場合はBの0.8倍となるとされた。
 
では、現実の評定結果はどうだったか。
 
【2020年】
被評定者総数 736人
SS   6人(0.8%)
S   75人(10.2%)
A  235人(31.9%)
B  342人(46.5%)
C   61人(8.3%)
D   14人(1.9%)
E    3人(0.4%)
 
SSは設定に比べて著しく低く、Sはほぼ同数だが、Aは31.9%と設定の1.5倍以上、Bも設定の1.5倍強に上った。これに対し、Dは設定を大きく下回る1.9%、Eに至っては設定の10分の1の0.4%にとどまった。
 
さらに、直近の2021年になると、最高評価と最低評価が極小化し、評価が中央に集中する傾向がさらに強まった。
 
【2021年】
被評定者総数 725人
SS   3人(0.4%)
S   67人(9.2%)
A  253人(34.9%)
B  360人(49.7%)
C   28人(3.9%)
D   12人(1.7%)
E    2人(0.3%)
 
中央のBがほぼ50%に達しているのは驚くばかりだ。その上のAも約35%と設定の1.7倍。そしてDとEという低評価の人数は、設定の15%を大幅に下回る2%にとどまった。
 
ちなみに、それより前はどうだったか。
 
【2019年】
被評定者総数 741人
SS   8人(1.1%)
S   41人(5.5%)
A  171人(23.1%)
B  301人(40.6%)
C  153人(20.6%)
D   46人(6.2%)
E   21人(2.8%)
 
2020、21年に比べ、上から2番目のSは設定の半分強、Aは設定をやや上回る程度、標準のBは4割と設定の3割よりも1割多い。これに対し、低評価グループのCはほぼ設定通りの2割で、DとEは設定を下回るものの、実数で見るとDは直近の2021年のほぼ4倍、Eは10倍以上だ。
 
制度導入からの年数が比較的浅かった2019年と比べると、20、21年はSSを除き、社員の評価が著しく上方にシフトしている。
 
そもそも、社はこの制度の強行導入に際し、社員一人ひとりや全体の働きぶりがどのようであっても、評定結果を一定の比率に分布させることが「実態に即する」(大室真生前社長=元労務担当取締役)と強弁していた。しかし、実際は全くそうなっておらず、とりわけ21年の制度上の設定と結果のかけ離れ方は凄まじいばかりである。
 
上崎正則労務担当取締役はこの乖離について「制度導入時の割合になっていないのは確かだ」と認めつつ、「コロナの状況で在宅勤務をしている者もおり、厳しめに評定すると運用が難しくなる」と釈明した。上崎氏はこの問題について昨年の団交でも同様の説明をし、「在宅勤務の普及を踏まえた制度の策定」を表明していた。
 
このため、労働者委が策定の進捗についてただすと、上崎氏は「検討中。なるべく早く整備する」と答えた。新型コロナの感染拡大から2年以上経つにもかかわらず、社自身はやると言ったことをいまだにやっていないのだ。これまた驚くべきである。
 
労働者委は「記者は勤務時間中、ずっと誰かが横で一緒に仕事しているわけではない。在宅だろうが、記者クラブであろうが、やろうと思えば評価はできるはずだ」と改めて指摘した。出先の記者クラブなどに配属される外勤の記者は、平時においても上司から同じ事業場内で仕事ぶりを監視されているわけではない。在宅勤務という環境に適応し、良い仕事ができた記者もいるだろうし、その逆もあったはずで、この2カ年の評価がコロナのせいで歪み、重心が中上位にシフトしたという説明はにわかに信じがたい。
 
真因は容易に推測がつく。そもそもの制度上の分布が現実とかけ離れており、無理があったのだ。さらに、一次評定に当たる中間管理職が部員からの反発を避けるため、低く評定する社員を極力減らしたいという心理が働いたせいだろう。労働者委はこう追及した上で、「制度は実質的に崩壊した」と強調した。
 

年齢別一律給ベースの体系に移行を

労働者委は役割等級制度の導入に反対してきた。中高年の給与と賞与に格差を広げて不平等感を広げ、社内のモラルを荒廃させ、一般社員の労働意欲を著しく減退させることが必至だったからだ。前述のとおり、毎年の号俸の上昇と上位等級への昇進によって基本給に大きな差をつけ、さらに翌年度の賞与に至っては、組合と妥結した額から総合評語がC以下の社員は1~2割もカットされる。これは金額でみて、不祥事などを起こした社員に科される「処分」と同じであり、何ら問題を起こしたわけでもない社員への仕打ちとして到底許されるべきではない。西沢豊元社長と大室前社長(導入時の労務担当役員)の両者が主導し、この制度を強行導入した責任は極めて重い。
 
社は役割等級制度の実施前の人事制度の柱だった「職能資格制度」について「人事評定の結果が中央に寄りがちだ」として、わざわざ具体的な数値を示し、信賞必罰の制度導入を目指すとした。社が「人事評定は絶対評価に基づいて行う」としたため、われわれは、「絶対評価」であるはずなのに等級ごとに被評定者の人数の割合を予め決めるのは「矛盾しており、おかしい」と批判したが、社は「『絶対評価』をさらに『相対評価』に修正する」という支離滅裂な説明を繰り返していた。
 
ここまでの事実経過が表すのは、社が非論理的で不自然な賃金格差を自己目的化し、制度化しようとしたものの、そもそもの制度設計自体に無理があっため、持続できなくなったということだろう。社は役割等級制度の導入後も毎年、巨額の営業赤字を計上し、現在の境克彦社長が就任した後も減収幅と営業赤字幅を拡大させている。社が役割等級制度の導入理由として挙げた「社業の活性化」といううたい文句など見る影もない。取締役会と幹部職制がこのような体たらくの経営を続けつつ、中高年の一般社員の賃金を下げ続けることに正当性などあるはずがない。しかも、社は制度導入以来、各部に副部長職を新設したり、専任部長に就く者を拡大したり、職制手当ての引き上げを断行したりし、賃金格差の拡大に拍車を掛けてきた。その間、赤字経営にはまったく歯止めがかかっていないのだ。
 
賃金は人への投資でもある。社員が仕事で出した良い結果に対し、翌年度の一時金で報いる考え方は全く合理的でなく、戦略的にも有効ではない。すでに出た結果に対して、事後的に一時金を増額する、つまり「咲いた花にだけ遅れて水をやる」ようでは、年月の経過とともに、植物が花を咲かせうる面積は縮小していくだろう。人材投資はそのような発想ではなく、活躍できる潜在力を持つ多くの社員が縦横に取材・執筆活動に取り組めるよう、手厚く処遇する、すなわち「広く庭に水をまく」ことで成長を促すのが筋である。労働者委は、役割等級制度とそれに基づく賃金制度を直ちに廃止し、社員の所得を広く底上げし、ライフステージに応じた年齢別一律給を基本とする賃金体系に移行するよう求めてきた。
 

インフレ対応一時金、早々と拒否

労働者委はコロナ禍からの世界的な経済活動の正常化やロシアのウクライナ侵攻後、日本を含む世界で加速するインフレに対応し、社員の負担を和らげるべく、追加の臨時一時金の支給を求めたが、上崎氏は「少なくとも今年度は行わない」と早々と拒否を表明した。
 
一方、社は近く、2022~24年度の3年間を対象とする新たな中期経営計画を示すと表明した。そして今夏ごろをめどに現在の無料のインターネットサイト「時事ドットコム」の会員登録制を始め、将来の課金・有料化を検討するとし、「長めのデジタルコンテンツを売り物にする」と説明した。地方紙などマスメディアサービスの契約者向けにも、デジタルコンテンツの配信を検討するとした。
 
ただ、類似のサービスはすでに多くの同業他社も始めており、出遅れ感が強い。社の売上高は長年、減少基調を続けてきた。主力事業の構築による増収基調への転換は社業再建に不可欠だが、ビジョンと戦略的思考の不在は深刻だ。労働者委は「他社の二番煎じや兵を分散させるようなことばかりやるのではなく、自社が正しいニュースをどう考え、伝えるかをもっと真剣に考えるべきだ」と訴えた。さらに、現在商品化されていない、時事通信が長年蓄積した過去記事のデータベースについても、その価値を再評価し、戦略に組み込んでいくべきだと主張した。
 
もはや社内で賃金格差を人為的に広げる仕組みのためにリソースを投入している余裕などない。社は、社員が所得を底上げされ、一丸となってアイデアと労力を結集させ、社外との厳しい競争に打ち勝てるよう環境を整備すべきである。今こそ労働者委の声を受け入れ、人事・賃金制度を抜本的に見直し、春闘要求に実のある修正回答を行わねばならない。◼️
 
 


労働者委、赤字拡大に抗議
営業損が16億円に―社の9月中間決算
展望欠く経営陣の無責任ぶり批判


2021年12月13日
団体交渉報告

  
時事通信労働者委員会は12月13日、冬季一時金などをテーマに時事通信社と団体交渉を行った。社は基本給の1.35カ月分を柱とする一時金回答を示した。水準は前年を下回り、長引く史上最低水準からの脱却が見えない。
 
社が一時金回答の背景として説明した2021年9月中間決算によると、売上高は東京五輪・パラリンピック関係のデータや記事をインターネットメディアにほぼ独占的に配信したことなどで前年同期比3.1%増の82億円。営業損益は人件費などのコストが増えて16億600万円の赤字(前年同期は12億600万円の赤字)、経常損益は6億6500万円(3億4600万円の赤字)、最終損益は6億9400万円(3億5400万円の赤字)となり、いずれも損失が大幅に拡大した。
 
増収は五輪需要の一時的増加のほか、子会社「内外情勢調査会」が前年に新型コロナウイルス禍で一部を見送っていた講演会の開催状況が正常化し、収入が平時に戻ったのが主因。一方、円安で海外特派員の給与負担が増えたことに加え、コロナ禍の落ち着きで取材・営業費が増え、損益が悪化した。
 
社業を圧迫する基幹システムの費用負担について、社は5年単位でクラウド化や簡素化を進め、軽減を図る方針を示した。さらに増収策として、インターネットサイト「時事ドットコム」の一部有料化の検討を進めるとした。
 
上崎正則労務担当取締役は「赤字は増えたが、費用増はやむを得ない面もあった」などと振り返り、「これ以上の費用カットは無理」と言い放った。「21年度を収益の底とし、22年度の経常黒字を目指す」とする境克彦社長の見解を紹介、収益改善に努めると主張したが、売上高は五輪関係サービスの一時的要因を除けば基調はマイナスで、本業のもうけを示す営業損益も年30億円超の赤字を計上するペースだ。労働者委員会は「事態は深刻だ」と強調し、増収基調への展望を欠く経営陣の姿勢に抗議した。
 
労働者委は団交で、エネルギー価格高騰などに伴い、物価高の悪影響が従業員の生活にも及ぶ公算が大きいため、社に「機敏かつ柔軟に一時金を追加支給できる体制を整備すべきだ」を求めたが、社はこれを拒否した。
 
社は2015年10月、中高年の一般社員の賃金を著しく下げる一方、幹部社員の給料を引き上げ、社員間の賃金格差を拡大する「役割等級制度」を労働者委の反対を押し切って強行。2019年10月にも労働者委の反対を無視し、従来の単純労働時間制をやめ、超勤時間を過去の実績を基に「みなし労働時間外手当」として算定する「裁量労働制度」を実施した。
 
年2回の一時金についても社は役割等級制度を通じて賃金制度を改悪し、SS、S、A、B、C、D、Eの7段階の職務評定結果に応じ、基本給比例部分に1.4~0.8を掛けた額を支給する方式に変更した。
 
社は役割等級制度の導入の目的を「社業の活性化を図る」(大室真生前社長)と強弁していたが、業績は今も低迷が続く。労働者委が「給与格差の自己目的化」と批判してきた通り、職務評定は社員一人ひとりや全体の働きぶりがどのようであっても一定の比率に分布するという、非論的かつ実態にそぐわない仕組みで、しかも社は実際に20年の職務評定で自ら定めた比率を守らず、DEの割合を下げた。社はこの理由について「コロナ禍で労働環境が特別だったため」と釈明したが、労働者委は、低く評定された人の士気や生活に及ぼすネガティブ・インパクトがあまりにも大きすぎ、社が制度の破綻を事実上、認めたも同然だと指摘。社に対し、役割等級制度導入の誤りを認め、同じく強行導入した裁量労働制とともに、ただちに廃止するよう要求している。
 


新中期経営計画に数値目標の明示を
「責任負うべき」境社長にクギ—労働者委
デジタルニュース再構築、技術人材育成は不可欠


2021年7月20日
団体交渉報告

 
時事通信労働者委員会は720日、時事通信社と団体交渉を開き、出席した境克彦社長に巨額の赤字が続く経営問題などについて質した。境社長は策定中の中期経営計画について、新型コロナウイルス禍に伴う先行き不透明感を主な理由に、数値目標を掲げない考えを示した。これに対し、労働者委は「出すことによって責任を負うべきだ」と反論し、計画に収益などの数値目標を盛り込むよう改めてクギを刺した。

 
「営業黒字化」掲げぬ姿勢批判

社の2020年度の売上高は、金融情報サービスや講演会事業の減収などで162億円と、1990年代以降でみても過去最低の水準に落ち込んだ。営業赤字は25億円に、経常赤字も11億円にそれぞれ拡大し、収益ともに大きく悪化した。境社長は「全ての前提が(20年)4月の段階で崩れてしまった1年間。日本の多くの企業が経験した、少なくとも第2次世界大戦以降はあまり例のなかった懸案じゃなかったか」と述べた。
 
20年度は3カ年にわたる前中期経営計画の最終年度に当たっていたにもかかわらず、境社長は「(コロナ禍による環境変化で)3年後はどうなっているかさっぱり分からない状況」とし、今年6月に21~22年度の暫定計画を策定することでお茶を濁した。内容も数値目標を示さず、定性的なものにとどまった。今後は21年度から3カ年の中期経営計画に更新する方向で検討するとした。
 
境社長は、将来の時点で社があるべき姿をまず定め、そこから逆算して課題を洗い出す視点を重視すると表明。「最近、上場企業の中期経営計画を見ているが、SDGsや気候変動の取り組みなど非財務的情報に比重を移している。当社は株式を表に出している訳ではなく、それ(財務情報)をどこまで出すかだ」として、新中期経営計画に数値を盛り込まない考えを示唆した。ただ、「経常収支段階で黒字を確保したいという目標は捨てがたい」とし、これまで掲げてきた「経常損益の黒字化」目標は残す方針をにじませた。
 
これに対し、労働者委は「数字を出すことによって責任を負うべきだ」と要求。さらに「社会から見て有用な事業をやっているという理解が成り立つには、営業損益を黒字化するしかない」と営業黒字への道筋を示すよう求めた。時事通信社は電通の大株主であり、2015、16年度に同社からの配当が特殊要因などで増加した際、営業外利益が膨らみ、経常黒字に転じたことがあったが、営業損益は両年度とも巨額の赤字を続けた。時事通信の事業の実力を反映しているのは営業損益であり、営業黒字を第1に掲げない経営などあり得ない。
 
境社長は「それは今進めているコスト構造の見直しからやらないと難しい」と述べ、金融情報サービスなどで重荷になっているシステム費用の軽減が欠かせないとの認識を示した。

 
欠かせぬ技術人材の育成

労働者委は今年1月の団交でも、境社長に対し、就任後、金融情報サービスのコスト構造を検証し、改善策を打ち出すよう求めた。境社長は「時事通信社の情報に太い幹があり、それを各サービスが取りに行くようなシンプルな形にできれば、コストもすごく落ちてくる」と説明。自前と他社との連携の両方を視野に、クラウドの活用などを検討すると述べた。同時に、金融関係の情報やスポーツなどのコンテンツの拡充、時事ドットコムの収益力強化も課題だとした。
 
一方、労働者委は社がかつて金融証券向け情報サービスの根幹となる情報システムづくりに失敗したことを指摘し、技術人材を育成できなかったのが大きな原因だと主張。デジタルニュースを事業の重要な柱とするには技術人材の育成が不可欠だ、と強調したが、境社長は労働者委の主張をまともに受け止めなかった。過去に目を閉ざす者は将来に対してもまた盲目となる。労働者委は境社長に強く抗議した。■
 


社、裁量労働・役割等級制廃止など要求に拒否回答
人事評定で社の矛盾を批判-労働者委
未曾有の減収・赤字経営に抗議、修正回答求める


2021年6月11日
団体交渉報告

 
時事通信労働者委員会は6月11日、時事通信社と2021年春闘に関する団体交渉を開いた。賃上げのほか、社が強行実施した記者職を対象とする裁量労働制や、格差を広げる人事・給与制度「役割等級制度」の撤廃、年齢別を基礎とする賃金体系への移行など、労働者委が掲げた諸要求に対し、社はことごとくゼロ回答を貫いた。境克彦社長が表明した「MAIN」(メイン)など金融情報サービスの見直しについては「MAIN全盛期が原型のマーケット商品見直しは避けて通れない」と答えた。労働者委はゼロ回答に強く抗議し、修正回答を求めた。
 

評定制度の非現実性あらわ

社は役割等級制度に基づく2020年の社員への評定(対象者736人)で、総合評語(苦情申し立て前)をSSが6人(0.8%)、Sが75人(10%)、Aが235人(31%)、Bは342人(46%)、Cは61人(8%)、Dは14人(1.9%)、Eは3人(0.4%)とした。
 
社が導入に際し、分布割合をSS(5%)、S(10%)、A(20%)、B(30%)、C(20%)、D(10%)、E(5%)とし、賞与に反映させるとした制度設計と大きく乖離した。
 
労働者委は従来から、各年の個々の社員の働きぶりや、全体で見た働きぶりがどうであっても、常に評定結果を同じ割合に分布させるとする仕組みを「非現実的であり、給与格差を自己目的化するもの」として批判してきた。団交では、2015年10月の制度実施から数年を経てこのような分布に至ったのは、社の制度設計がいい加減な「机上の空論」で、労働者委の従来からの指摘通り、賃金を引き下げられる社員の生活や勤労意欲への悪影響という「負のインパクト」があまりに大きいことを、社が自ら認めざるを得なくなったからではないかと主張し、なぜこうした制度上の設計と実際の分布の乖離が起きたのか、説明するよう求めた。
 
これに対し、上崎正則労務担当取締役は、「2020年度は新型コロナウイルス感染の蔓延に伴う在宅勤務がさみだれ式、なし崩し的に各職場で導入された。在宅勤務制度が正式に確立せず、社員の勤怠管理や勤務評定の制度が確立されないまま在宅勤務が始まり、どのような評価が正しいかという手法が定まっておらず、今まで使ってきた分布を適用していいのか難しい面があり、結果的に分布が上方にずれてしまった」と釈明した。さらに、今年2月から在宅勤務が社内で制度化されたことを踏まえ、「評価制度を確立したい」と述べた。
 
しかし、平時においても、記者クラブを拠点に仕事をする記者は職場に直行、直帰しており、恒常的に上司の監視下にあるわけではなく、在宅勤務と比べて条件に大差があるわけではない。
 
しかも、今春に2020年の評定を通知された際、社員はこのような背景説明を受けていない。社の今回の見解は、労働者委が春闘団交を前に社に提出した文書の中で、評定の制度上の規定と実際の分布の乖離について説明するよう要求して初めて団交において示されたものだ。社が自己矛盾の説明に窮し、コロナ禍を便宜的に引き合いに出した疑いは拭えない。仮に社の説明が、評定に携わる職制の実務への影響を一定程度表したものだとしても、この程度の要因で大きく変動する評価を賃金の支給額に反映させ、多くの社員のボーナスを大幅にカットするのは明らかに行き過ぎである。労働者委は「根本的にこの制度がおかしいということが、今回の在宅勤務の中で図らずも出てきたのではないのか」と追及した。

「労働時間を算定しがたい」職場に当たらず

一方、裁量労働制に関して労働者委は、「労働基準法の施行規則で導入が認められているのは、『労働時間を算定しがたいとき』だ」と改めて指摘。時事通信においては、社員がウェブシステムを通じて日々、勤務時間を社に報告しており、「『算定しがたい』わけではない」と強調し、社の見解を問うた。
 
これに対し、上崎氏は「私が(記者として取材)現場にいて、自民党を担当していた時期には政治家への夜回りや朝回りで、8割方が待ち時間だった。待ち時間が果たして労働時間と言えるのかと疑問に思った」と述懐。「拘束時間であることは間違いないが、労働時間と言えるのか、時間で計れるものなのかという疑問がついてまわった」などと語った。その上で、「社がウェブシステムを通じて把握しているのは拘束時間であり、労働時間ではない」と述べた。
 
しかし、「拘束時間」とは、休憩時間を含めた始業から終業までの時間を意味する。つまり、労働者が労働時間の間に取得する休憩を除けば、拘束時間は労働時間そのものである。労働者委が「労働時間が算定しがたいことの説明にはなっていない。拘束時間と労働時間は違う、というのが労働基準法に基づく社の認識なのか」と確認を求めると、上崎氏は「私の個人的見解だ」と述べ、社の公式見解ではないことを示唆した。
 
そもそも団交で組合が質すのは、社の見解である。団交当日において総務・労務・法務・関連事業担当の取締役で、6月下旬から総務・労務・法務・仕事改革を担当することが内定していた取締役の上崎氏が、裁量労働制の導入から2年近くを経てこの程度の見解しか示すことができないのは、社による制度導入がいかに真剣な検討と熟慮を欠いてきたかを示す証し以外の何物でもなく、呆れを禁じ得ない。
 
あえて解釈するなら、上崎氏が言及したのは、労働時間の中で、成果が現れやすいタイミングとそうでないタイミングの濃淡があるということだろう。
 
記者の仕事は、取材の準備や取材対象との調整など「種まき」に当たる作業から、記事が実際に世に出る「収穫」に当たる行動まで幅広い。取材には、対象が現れるまで待つことが必要な場面も含まれる。確かにそのタイミングでは成果は現れないが、記者は待ち時間なしでは相手に接触できないからこそ、接触を図るためにそこで待つのであり、それは明白に労働である。上崎氏が「種まき」なしで「収穫」だけができればいいと考えてきたのだとすれば、記者経験者としてあまりに不見識だとしか言いようがない。
 
もちろん、それぞれの場面において取材対象を待つことが必要かどうかは、現場とデスクが話し合い、判断すればよい。しかし、そのことと、時事通信において「労働時間が算定しがたい」か否かは無関係である。
 

社は、労働者委の賃上げ要求や、同一労働・同一賃金の原則から問題が多いシニア職員に対する待遇の改善要求も拒否した。背景となる2021年3月期の社の業績は、売上高が前期比5.3%減の162億円、営業損益が25億1300万円の赤字(前期は20億6000万円の赤字)、経常損益が11億0700万円の赤字(4億3900万円の赤字)、純損益が23億円8800万円の黒字(6億8800万円の黒字)だった。上崎氏は、売上高について「私の入社(1982年)以降で最低」の低水準に落ち込んだと述べた。さらに、地方銀行などを顧客とする金融機関向け情報サービスの厳しさなどを背景に、「22年3月期は赤字幅が拡大する恐れが高い」との見通しを示した。労働者委は、社の減収・赤字経営に抗議し、修正回答を求めた。

 


 ー2021年春闘の主な要求項目ー
▽記者職を対象とする裁量労働制の撤回・廃止
社が2019年10月に強行実施した記者職を対象とする裁量労働制を廃止し、単純労働時間制に戻すこと。社の裁量労働制は記者クラブごとの残業の実態を踏まえ、繁忙職場では月55時間などの残業をしたとみなす内容で、長時間労働の隠れ蓑以外の何物でもない。
 
またみなし労働時間は過去の記者クラブごとの実績などに基づき算定されるため、直近の労働実態を反映していない。単純労働時間制であれば、現在長時間労働を要する職場を担当する記者が翌月に実際の時間外労働に応じて時間外手当を受け取る。しかし、社の裁量労働制では、その時の労働実態が反映されるのは翌年以降、しかも過去数年の平均値で、異動などがあれば、本人ではなく、他の者の手当に反映されることになり、不合理である。
 
長時間労働削減の取り組みは、労働実態を忠実に反映させる賃金制度を前提に、労組や現場記者の真摯な話し合いを通じてなすべきだ。
 
裁量労働制は、ニュースとなるべき事象の発生や取材対象の動向など他律性の高い記者の労働実態に照らし、ふさわしくない。社は労働基準法施行規則が定める「専門業務型」で認められていると主張するが、そもそも同法が定めるのは「労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定しがたいとき」(第38条の2)である。時事通信において、社は現在もウェブ上の出勤簿システムを通じて記者の労働時間を日々、把握しており、「労働時間を算定しがたい」実態は存在しない。
 
▽人事・給与制度「役割等級制度」の廃止と賃上げ
社は2015年10月から強行実施した人事・給与制度「役割等級制度」を廃止し、年齢別一律給を原則とする制度に移行した上で、賃上げを実施すること。役割等級制度に基づく賃金体系は、幹部職員の給与を手厚くする一方、中高年の一般社員の給与を削減し、社内の賃金格差を大幅に拡大する過激な内容で、一般社員の生活を脅かし、士気を低下させ、社全体のモラルの荒廃を招くことが必至である。
 
社は役割等級制度で、年度ごとの人事評定の結果を示す「総合評語」を7段階に細分化し、全体に占める割合をそれぞれSS(5%)、S(10%)、A(20%)、B(30)、C(20%)、D(10%)、E(5%)とした上で、賞与への反映度合いを拡大するとした。
労働者委は、各年の個々の社員の働きぶりや、全体で見た働きぶりがどうであっても、常に評定結果を同じ割合に分布させるとする仕組みを「非現実的であり、給与格差の自己目的化」と批判してきた。
社による2020年の総合評語は、対象者(736人)のうち、SSが6人(0.8%)、Sが75人(10%)、Aが235人(31%)、Bは342人(46%)、Cは61人(8%)、Dは14人(1.9%)、Eは3人(0.4%)であり、社が定めた制度の設計と大きく乖離している。
 
制度導入から数年を経てこのような分布に至ったのは、労働者委の従来からの指摘通り、そもそも制度設計が非現実的で、かつ同制度によって賃金を引き下げられる社員の生活や勤労意欲への悪影響という「負のインパクト」があまりに大きく、より現場に近い評定者が従業員から恨まれるのを避けるため、全体として評価を上方にシフトさせたためだと考えられる。社の制度設計がいかにいい加減な「机上の空論」であったかを示す証拠だ。
社は2020年の総合評語がなぜ、このように制度の建て付けから乖離する分布になったか説明するよう求める。
 
▽金融機関向け情報サービスに関する説明要求
境克彦社長は1月の労働者委との団体交渉で、「MAIN」をはじめとする金融機関向け情報サービスの業容が厳しいとの認識を示し、「今までのようなマーケットサービスはこれからもうどこもできない」と述べた。社は従来のサービスを見直す考えなのか。だとすれば、どう見直し、労働環境にどう影響を及ぼすと考えているのか明らかにせよ。
 
▽シニア社員処遇の改善
シニア嘱託社員は仕事の内容が定年前と変わっていないケースが多い。同一労働・同一賃金の原則に基づき、60歳社員の本人給の額に7/7.5を乗じた額を支給すること。■
 


境社長の経営方針にもの申す、恐れるべきは「臆病者の罠」
労働者委、巨額赤字経営の責任追及―時事再生に向けて
不当労働行為事件の解決と人事賃金制の抜本是正を


2021年1月14日
団体交渉報告

 

時事通信労働者委員会は1月、昨年6月に就任した境克彦社長出席の団体交渉を開き、労働者委との関係を今後どう構築するか問いただし、年頭の所信表明の中で境氏が打ち出した「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の推進などの経営方針についても質問した。境氏は「引き続き良好な労使関係の構築に向けて、良い建設的な関係をつくっていきたい」と述べるとともに、2021年度を初年度とする新たな事業計画策定に着手する考えを示した。しかし、計画に収益の数値目標などを盛り込むことには消極姿勢を示すなど具体的な計画の方向感を明らかにしなかった。今後の経営に関しては「とにかく変えたい」と焦りにも似た発言が多く、説明は理念や全体観を欠き、危うさが拭えなかった。

そもそも労使関係は「建設的」だったか

「引き続き建設的な関係」とした境氏の発言に対し、労働者委は「そもそも建設的な関係だったのかを含め、理解してほしい」と語り、他界した山口俊明・長沼節夫両代表幹事に対する不当労働行為問題の解決に向け、まず「社は謝罪すべきだ」と要求した。境氏は「その時、その時、色々なそれぞれの場で決着された問題だと認識している」と述べ、山口氏の不当解雇問題については「最高裁で既に判決が確定している問題で、社の見解に変わりはない」と社の従来見解を繰り返した。
労働者委は「われわれはそれとはまったく別の考え方をしている。あったことをなかったことにはできない」とし、団交の場で引き続き問題解決を求めていく考えを表明した。

山口氏の問題は、同氏が有給休暇を取得したことを理由に解雇されるという、現時点から振り返ってもあまりに理不尽極まる事件だった。長沼氏の場合は、ジャーナリストとして社外で高く評価される才能の持ち主を、労働者委のメンバーだという理由で整理部などへの不当配転を重ね、取材・執筆の場を奪い、賃金面では差別し低水準の給料に据え置き、いじめ抜くという非道な仕打ちだった。
 
社内で過去に起きた不当な懲戒解雇や人事・賃金差別は、現在の時事の経営の悪化の原因とも通底している。社は直ちに原因を解明し、責任を明確化し、謝罪し、問題を解決しなければならない。
 
「過去は忘れて、前を向いていこう」などという趣旨なら、そのような安直な発言はやめてもらいたい。
 
境氏は団交で、若年層の採用に関し、「あまり良い子ぶらなくていいから、もっとギシギシやってくれる人をいかにして採るかだ」と課題認識を示した。滑稽極まる見解だといえよう。かつての山口氏や長沼氏こそ、「良い子ぶりなどせず、ギシギシやる」記者の典型例であり、日本のジャーナリズム界における宝のような存在だったからだ。それを当時の時事通信は虐待し、排除し、見せしめにした。境氏は、これに何らの反省も示さず、「『第二の山口、長沼』が出てこない」と嘆いているのだ。
過去の蛮行に対する反省・謝罪と是正措置なくして、時事通信の明るい未来はない。21年間にも及ぶ営業赤字の巨大な山は、過去を反省することのない、無責任経営の結果以外の何ものでもなく、これには今こそ終止符が打たれねばならない。

「的外れな認識」、1986年との比較で見えるもの

境氏は団交で社の経営分析にあたり、売上高の規模が近年と同程度の1986年度と直近の業績を比較。最も大きな違いとして、当時よりもコストが20億円程度高くなっているとし、その最大の要因は金融市場向け電子情報サービス「MAIN(メイン)」のシステム経費が、拡大期のまま「高止まりしている」ことを挙げた。当時よりも人員は300人減っており、「それを含めれば20億」どころの話ではないとし、赤字の原因となっているコスト構造を可視化し、見直す考えを強調した。
労働者委は「確かに(コストは)大切なことなのだろうが、当時の売上高は186億円(注・直近の2019年度決算は売上高171億円)。世の中インフレもある。デフレとは言っても(物価変動率は)ほぼゼロ近傍でそんなに激しいデフレではない。全体としてはGDP(国内総生産)も増えている。30数年前と今の売上高が同じだということの方が深刻な問題ではないか」と指摘した。
これに対し、境氏は「日本は名目(GDP)は30年間増えていなかった」と述べた。この認識は明らかに的外れだ。政府の国民経済計算によると、日本の名目GDPは1986年度353兆円(2011年基準)だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響が限定的だった2019年度には559兆円と、6割拡大している。日本経済がこれだけ成長しているにもかかわらず、時事通信の売上高は1986年と同程度、より正確に言えば15億円も下がっているのである。
 
境氏は「うちの問題はこんなに人が減っているのに稼げなかったということ、そこだと思う」と語った。この発言は、社員数1000人強の会社が300人もの人員削減をしてコストカットしたのに黒字化できなかったという趣旨だろう。もし、費用対効果の面で重大な問題が存在しているのならば、それを明るみに出して解決し、巨額赤字体質からの早期脱却を目指すことに異論はない。しかし、問題はそれだけではない。

700億円の売却益はどこに消えた

メインは一時期、社の屋台骨だったが、バブル崩壊後の金融不況の中で存亡の瀬戸際に立たされ続けた。歴代経営陣は金融情報関係の情報システムを刷新し、メインの新サービスを始めると世の中にアナウンスしながら新しい情報システムを構築できず、数年にわたり毎年、新サービスの開始を見送る事態に追い込まれ、最後は野村総研などとの提携で終わった。
大手自動車メーカーが毎年新モデルを出すと言いながら、数年にわたってそれに失敗し続けたらどうなるか。時事通信は多額の投資をしながら情報システムの刷新に失敗し、その後もメインに代わる商品や事業を生み出すことができなかった。ならば、なぜ情報システムの構築に失敗したのか、なぜ新しい事業・商品を生み出せなかったのか原因を分析・反省し、創造的な再興の道を考える必要があった。にもかかわらず、歴代経営陣はそれを怠ってきたのだ。
 
もう一つ重要なのは電通株の売却問題だ。時事通信は旧同盟通信から電通株を引き継ぎ、電通の上場を機に、同株を売却し、新社屋の土地や建設、情報システムをはじとする事業に投資するとともに、巨額の赤字の穴埋めをしてきた。労働者委は境氏にこれまで時事通信が得た電通株の売却益の累計がいくらになるか聞いた。境氏は「(資料は)手元にない」として答えられなかった。労働者委の計算ではこの20年で約700億円にも上る。2019年度の売上高の約4倍である。
 
電通株で得られた売却益はキャッシュそのものであり、それをどう使うか、あるいはどう使ったのかは経営以外の何ものでもない。境氏が時事通信の経営の最高責任者であるならば、社が存続できた最大の要因である電通株に関連する事実とその分析をこそ行う必要がある。もし、同株がなければとうの昔に時事通信は潰れていたに違いない。現在も時事通信の営業赤字は20億円に上る(2019年度)。
 
171億円の売上高に照らし、この営業赤字は明らかに巨額すぎる。しかも、経常損益は電通株の配当金で相当程度相殺され、4億円強の赤字となっているが、2020年度は営業、経常赤字の拡大が懸念される状況だ。電通株が何に、どのような形で使われたのかは徹底的に分析し、総括されなければならない。時事通信の経営が無残に崩壊したのだとしても、そのプロセスをつぶさに検証すれば、経営の問題点と再生に向けた課題が浮かび上がるはずである。

次期事業計画は目標値なし?

境氏は2021年度を初年度とする新たな事業計画を近く策定する方針を明らかにした。現行の計画は2020年度が最終年。境氏は従来の計画について「惰性的に売上高が増える前提の計画を作り、実現したことは1回もない。計画に数値を入れたものを作ると、計画の罠(わな)にはまり、あまりプラスにならないんじゃないか」と述べ、収益の数値目標を伴わない計画とする考えを示唆した。
これも問題だ。過去に増収を実現できなかったからといって、そもそも数値目標を置かないのであれば、経営者が経営責任そのものを端から放棄することになりかねない。境氏は歴代取締役会が「惰性的に売上高が増える前提の計画」を作ってきたことを認めた。その認識自体は間違っていない。売り上げは惰性では増えない。事業の革新によって非連続的に拡大するのであり、それは従業員の労働と経営の意思との総和であり、数値目標はそれを可視化するための指標である。
強い事業を創り、売り上げを拡大させることができるかどうかは、時事通信が社会の中で存在する意義があるのか否かと同義である。そのような事業を構想し実行していくことは、数値目標を掲げることと一体のはずだ。労働者委は、数値目標を立てないことを示唆した境氏に「それは経営者として問題ではないか。みんな目の前のことしかやらなくなる」と強調し、責任ある態度で計画の策定に当たるべきだとクギを刺した。

驚くべき不透明経営、2015年信託譲渡問題

境氏は団交で時事通信の本社ビルが建つ東銀座の底地の一部を昨年末に売却し、2015年に信託譲渡によって資金調達した99億8000万円にも上る長期借入金を返済したことを明らかにした。売却の相手方はNTT都市開発。売上高(2020年3月期171億円)に比べ膨らみ過ぎた資産規模(同期の資産合計423億円)をスリム化するのが狙いだとした。
売却以前の状況については、「ちょっとやそっとでは理解できないような信託を絡ませたすごい複雑なスキーム」とし、「SPC(特別目的会社)を設立し、建物やテナントからの収入など『一切合切』を信託譲渡し、金融機関から証券を借り入れるスキーム」と説明した。
さらに秘密保持契約を理由に「詳細はまったく開示できない」とし、売却した土地の面積なども説明を拒んだ。労働者委は「ものすごい不透明な経営だ」と批判、説明を求めたが、今年の株主総会に提出する貸借対照表から類推するか、NTT都市開発に取材してもらうしかないと重ねて拒否した。
 
そもそも2015年に「すごい複雑な」(境氏)方式でかかる信託譲渡を実施したのは当時の西沢豊社長だ。境氏によると、社は社内文書で信託譲渡について報告したが、金額の明記がない「大ざっぱな内容」(同)だった。労働者委がこの信託譲渡について「2015年にそういうことをやっていたということ自体、知らなかった」と述べたところ、境氏は「私も知らなかった」と応じた。
社有地の取り扱いが絡む約100億円もの資金調達という重大な施策を、その後社長に就任する境氏もよく分からないような形で実行し、社員に周知しなかったのは大問題である。とりわけ時事通信社は社員持株会社であり、経営陣は重要な経営事項について、社員と労働組合に常に明確な説明を行う義務がある。それを怠った西沢元社長は許されない。
 
西沢氏は2015年10月から賃金格差を一気に拡大させた人事・賃金制度「役割等級制度」を強行した張本人だ。労務担当取締役時代は労働者委に対する数々の不当労働行為を働き、東京都労働委員会の場で労働者委に対する謝罪と、団交などに関する労使協定順守の確認を迫られた人物でもある。労働者委は事実関係のさらなる開示を求めるとともに、西沢氏が説明などにおいて経営責任を果たすよう求める。
 
経営陣が密室で重要施策を立案・実施し、それを明確に社員に周知しなかったり、契約保秘義務を盾に説明責任を放棄したりすれば、企業統治(ガバナンス)は地に落ちる。ただでさえ、社は巨額の営業赤字を毎年垂れ流し続けており、労働組合や社員のチェックから逃げるようなら、経営は瓦解する以外にない。境氏には、この問題についてさらに明確に説明するよう要求する。

何のためのDXか

境氏は年頭の所信表明で、「グレート・リセット」という言葉を用い、「デジタル化推進」(DX)を掲げた。その意味を問うたところ、境氏は「紙を電子化するということじゃなく、やり方そのものを変えちゃう。例えば経費の精算業務そのものを無くしたとか、もうちょっと広い概念と私は理解している。それをやっていかないと、世の中にもう追いつけず、今でも相当遅れている」と答えた。
確かに、時代を問わず、技術の進歩と事業の質の変化が二人三脚のように同時に進むのは事実であり、デジタル化も例外ではない。1990年代以降のメディアの多チャンネル化やインターネットの発達、個人が交流サイト(SNS)などソーシャルメディアを通じて情報発信する機会が広がったことは、ジャーナリズムの在りようを根本から揺るがせた。
 
メディアの多様化は当初、受け手の選択肢が増え、豊かさをもたらすと理解されたが、次第に弊害も目立つようになっている。大多数の人々は日常の仕事や家庭生活を抱え、限られた時間の中でニュースにアクセスする。多様化により、人々は「何を信じたいか」に即してメディアを選択し、「消費」する傾向が強まっていった。
 
その中で、報道とエンターテインメントの境界線が曖昧となり、次第に事実に立脚するという基本が軽んじられるようになった。それが最も先鋭的に進んだ米国では、ドナルド・トランプ前大統領のように、嘘を用いて人々を扇動しようとするデマゴーグが影響力を増すに至った。権威主義者が経済格差の拡大によって将来不安を抱える中間層につけ込み、どうにかしてそれを解決する強いリーダー像をチラつかせ、支持を広げる現象は、米国だけでなく、世界の多くの国・地域で進行している。
 
このような時代にあって、ジャーナリズムが果たすべき役割は何か。権力と対峙し、客観的事実の発掘に当たるという原点に戻ることをおいて他にない。そのために必要な人とモノ、カネは何かを問い直し、新技術をも取り入れ、活用すべきである。米国ではトランプ氏の大統領就任(2017年)以降、ニューヨーク・タイムズが読者数を急速に伸ばした。同社は、米大統領選をめぐり真偽の怪しい情報が特にネット上を飛び交った2020年にデジタルのみの読者数を230万人増やし、デジタルと紙媒体の購読者数が750万人を超えた。
 
明確な目的意識を持ち、新技術を最大限導入したことが、読者の期待に応えたからだろう。ここに時事通信が目指すデジタル時代のモデルの一つがあるのではないか。
時事通信は新聞のように紙媒体のしがらみがなく、今や配信網はインターネットという形で社会に整備されている。新聞やテレビを通さず、読者にニュースを直接提供できる時代が到来した。デジタル時代のジャーナリズムの在り方を根本的に考え直し、ニュースサービスを「再発明」し、新たな挑戦に向かう時が来た。これこそ時事再生の本命である。
境氏はどうか。とにかく「リセットだ」「やっていかないと遅れる」と焦るばかりで、「何のためか」という目的を示すことがない。その姿はあたかも、自らは軍の司令塔にいながら、敵のありかを兵士に示すことなく、「とにかく敵が怖いから矢を放て」と叫ぶ、怯えた大将のようである。境氏の訓示が説得力に乏しいのは、このためだ。
これから境取締役会が策定するいかなる事業計画も、労働者委との関係を過去に遡って見直し、反省すべきを反省する視点に立たなければならない。過去の歴代取締役会との連続性を断ち切り、踏み込んだ反省を示すことなくして、計画も意味あるものにはならない。まずは故山口・長沼両代表幹事と遺族、そして労働者委に対し、不当労働行為を謝罪するとともに、労働者委の反対を押し切って導入した結果、社が主張した組織活性化に全くつながらなかった人事・給与制度である「役割等級制度」と「みなし労働制度」を撤廃し、在るべき制度について抜本的な労使協議を行うべきである。
 
境氏が恐れるべきは、事業計画に数値を盛り込むことによる「数字の罠」などではない。問題の根本に目を向けることから逃げ続ける「臆病者の罠」である。


社の赤字拡大経営に抗議-労働者委
9月中間決算は5%超の大幅減収
格差拡大の賃金制度、即刻廃止を要求


2020年12月8日
団体交渉報告

 
時事通信労働者委員会は12月8日、冬季一時金などをテーマに時事通信社と団体交渉を行った。社は基本給の1.375カ月分を柱とする一時金回答を示した。一時金は近年、史上最低の水準で推移しており、今回の回答もその水準の延長線上にある。
 
社は一時金回答の背景として、2020年9月中間決算について説明。それによると、売上高は証券・金融関連のニュース・情報サービスなどの減少により前年同期比5.3%減の80億円に落ち込み、営業損益は12億600万円の赤字(前年同期11億5100万円の赤字)に拡大。経常損益は3億4600万円の赤字(3億3900万円の赤字)となり、最終損益は3億5400万円の赤字(2億5400万円の黒字)に転落した。
 
社は2015年10月、中高年の一般社員の賃金を著しくカットし、幹部社員の給料を引き上げ、社員間の賃金格差を拡大する「役割等級制度」を労働者委の強い反対を押し切って実施した。さらに2019年10月には同じく労働者委の反対を拒絶し、従来の単純労働時間制をやめ、超勤時間を過去の実績を基に「みなし労働時間外手当」として算定する「裁量労働制度」を強行した。
 
年2回の一時金についても社は役割等級制度を通じて賃金制度を改悪し、SS、S、A、B、C、D、Eの7段階の職務評定結果に応じ、基本給比例部分に1.4~0.8を掛けた額を支給する方式に変更した。
 
労働者委は団交でこうした賃金制度の改悪について、重ねて抗議するとともに、一時金について「基本給を削った上に一時金にマイナスの乗数を掛けるのは事実上の処分に当たる。巨額の営業赤字を続ける社経営陣と幹部に社員の賃金をカットする資格があるのか」と、強く抗議した。
 
社は役割等級制度導入の狙いを「活性化を図る」(大室真生前社長)と繰り返し強弁してきたが、業績は低迷し、近年は悪化の一途をたどっている。労働者委は団交で、同制度が破たんしているのは明らかであり、「長時間労働の隠れ蓑になる」と批判してきた裁量労働制と一緒にただちに廃止するよう要求した。
 
2020年6月に就任した上崎正則労務担当取締役は、9月中間決算が5%超もの大幅減収に落ち込んだ要因について、新型コロナウイルス流行に伴う通信収入の減少を挙げ、柱の一つである金融系サービスの苦戦は「銀行、証券不況による」と説明した。
 
しかし、これは事実に反する。コロナ禍を受けた世界の中央銀行の金融緩和に伴い、手元資金を潤沢にした投資家の行動が旺盛になるなどし、証券業界はむしろ活況を呈したのである。労働者委が「証券業界は不況ではなく、時事通信の減収理由にはならない」と指摘すると、上崎氏は誤りを認めた。
 
時事通信の営業赤字は20年3月期まで21期も続いており、この間には、特定業界はもちろん、日本経済全体で見ても好不況のサイクルは繰り返されてきた。時事通信の収益低迷の原因を「不況」に求めることは根本から間違っている。社は長期にわたる業績の低迷を自らの経営責任を棚上げし、景気のせいにするのが習い性となっているとしか考えられない。
 
このような経営しかできない社経営陣と幹部に社員の働きぶりを評定する資格は全くない。労働者委は社に対し、低水準の一時金回答に抗議するとともに、不当な役割等級制度・裁量労働制度を即刻廃止し、2020年春闘における労働者委の賃金改定要求に沿って賃金体系を見直し、基本給の水準を引き上げるよう強く要求した。


社、21期連続の巨額営業赤字 20年3月期決算
格差拡大の人事・賃金、裁量労働制の強行で士気崩壊
歴史的低水準の夏季一時金回答に抗議 労働者委


2020年6月11日
団体交渉報告

時事通信労働者委員会は6月11日、時事通信社と夏季一時金(賞与)などをテーマに団体交渉を行った。前年と同じ1.375カ月分をベースとし、役割等級制度に基づく前年の職務評定結果に応じて1.4~0.8を乗じた額を支給すると回答した。金額は歴史的低水準を続けるとともに、賃金格差を一時金でさらに拡大させる不当な内容だった。これまでゼロだったシニア嘱託社員などに対しては、労働者委の要求を大幅に下回る一律7万5000円を支給する回答にとどまった。
社は4月に施行された同一労働同一賃金法の施行に伴い、新たに支給することにしたと説明したが、金額は極めて低く、全ての待遇について正規・非正規社員の不合理な格差を禁じた同法の規定に遠く及ばない。
背景となった社の2020年3月期の決算は減収、営業・経常赤字だった。売上高は金融情報サービスを中心とする収入の落ち込みで前期比0.9%減の171億円。本業の実力を表す指標となる営業損益は20億6000万円の赤字(前期は19億7300万円の赤字)、経常損益は4億3900万円の赤字(同3億9200万円の赤字)で、いずれも赤字幅が拡大した。営業赤字は21期連続で、売上高の1割を超える巨額である。純損益は保有する電通株売却益を中心とする特別利益約11億円を計上し、6億8800万円の黒字(同2億4300万円の黒字)だった。
社の説明によると、期末にかけては新型コロナウイルスの感染拡大に伴い関連ニュースの注目度が高まり、ウェブサイト「時事ドットコム」へのアクセスが増加、広告収入増の恩恵を受けたにも関わらず、収益悪化を防ぐことができなかった。中村恒夫常務・労務担当取締役は巨額の赤字を続けてきたことに関し、「会社を継続する意味があるのかと言われてもやむを得ない状況であり、申し訳ない」と述べた。労働者委は巨額の赤字を出し続ける社経営陣の責任を追及するとともに、これに重い責任を持つ幹部社員が高額の給料を受ける現行の人事・給与制度「役割等級制度」を廃止するよう要求した。

■人事・給与制度改悪のインパクト鮮明

社は2015年10月に「役割等級制度」、2019年10月に記者が一定時間を働いたとみなす「裁量労働制度」をいずれも労働者委員会の強い反対を押し切って強行実施した。前者は中高年の一般社員の賃金を引き下げる一方、幹部社員の給料を大幅に引き上げ、社員間の賃金格差を拡大した。後者は、実際に記者が働いた時間にかかわらず、あらかじめ職場ごとに定めた「みなし労働時間」勤務したものとし、対応する賃金を支払うとする内容で、労働者委は「長時間労働の隠れ蓑になる」と警告し、反対してきた。
社は役割等級制度導入の狙いを「活性化を図る」(大室真生社長)と繰り返し強調した。大室社長は今年6月下旬の株主総会後に退任するが、結局、任期中に活性化は起きなかった。
社は業績が一向に改善しないため、やむなく途中から「成果を残した人に報いる制度であり、人事制度と業績は連動しない」(中村労担)と説明を変更した。しかし、これもまったく説明の体をなしていない。
社は役割等級制度の規定に基づき、賞与を前年の職務評定結果に応じて1.4~0.8を掛ける額を支払うとしており、中村氏の「成果を残した人に報いる」とは、基本給に反映させた賃金格差を、さらに一時金で増幅させるものである。これは乗率1を下回る社員にとっては、懲罰を受けるに等しい。
乗率1を下回る社員は、1を超える社員とほぼ同数いる。彼らは特段、不祥事を引き起こして社の名誉を汚すなどした訳ではなく、日々懸命に働き、社業に貢献している社員である。にもかかわらず、実質的な懲罰を受け、所得が大きく減少させられるのである。これが与える負のインパクトは計り知れない。自身や家族の生活を切り詰めなければならなくなり、自己研鑽のための投資もできなくなるのだ。
中村氏の「報いる」は、かなりの数の社員を「罰する」ことによって成り立つ。社は人事評価についてその結果だけを通知してくるが、総合評価や具体的な評価項目ごとの点数に関しては一切開示していない。社員には評価がなぜ上がったのか、なぜ変わらなかったのか、なぜ下がったのか、といった理由さえ分からない。しかも、評価する側の幹部社員と、社経営陣がより多くの責任を負うべき時事通信の業績結果は、巨額の赤字続きなのである。このようなデタラメな制度と経営陣・幹部が相当数の社員を賃金の大幅減という形で罰するような制度の下、社員の士気は崩壊に向かって猛進している。
労働者委はこの日の団交でも、諸悪の根源である役割等級制度とみなし労働時間制の撤廃を要求したが、社はこれを拒否した。西沢豊前社長、大室社長の両取締役会が社内に根強い反対や慎重論を踏みにじり、強引に導入した両制度の打撃はあまりにも大きい。労働者委は社に強く抗議するとともに、修正回答を求めた。

時事通信労働者委員会
WORKERS' COMMITTEE OF JIJI PRESS
founded in 1976


 
ARCHIVES(旧サイトより転載)
 
2019年6月19日
団体交渉報告
社、20期連続の営業損失、しかも大幅赤字の失態
田崎氏に特別解説委員の契約解除後も便宜供与
労働者委、格差拡大の賃金制度失敗と抗議


時事通信労働者委員会は6月19日、社と2019年春闘をテーマとする団体交渉を行った。社は2018年度決算で売上高が落ち込んだ上に、営業損失は20期連続となり、その赤字幅は売上高の1割を超える巨額に上ったことを明らかにした。賃金改定要求に対してはベアゼロを回答した。社は2015年10月に社が労働者委の強い反対を無視し、中高年の一般社員の賃金を不当にカットする人事・賃金制度「役割等級制度」を強行したが、最近の業績は悪化の一途をたどっている。労働者委は新賃金制度の破綻を指摘した上で、社の無責任経営に強く抗議するとともに、修正回答を要求した。

◾️「報道機関に対する公的制度の私的流用」
社は「特別解説委員」としての契約を昨年6月末で解除した田崎史郎氏について、「社として得るものがある」として、その後も国会記者証や国会バッジの貸与など取材の便宜を図ってきたことを明らかにした。労働者委は社に「田崎氏も時事通信も(国会記者証など)公的なものを私物化している」と強く批判した。

社の2018年度の業績は、売上高が金融系など情報サービスの落ち込みを主因に前期比2.0%減の172億円だった。営業損失は19億7300万円(前期は16億1900万円)と赤字幅が拡大。経常損失は3億9200万円(同2000万円)。純損益は電通株売却などで9億円余りの特別利益を捻出するなどし、2億4300万円の黒字(同3億8500万円の黒字)だった。

労働者委は社が新賃金制度を強行したにもかかわらず、業績がこれほど悪化したのは、同制度の導入が失敗だったからであり、このような体たらくの経営しかできないにもかかわらず、現取締役会と高給を受け取っている社幹部の責任は重いと批判。社全体に重大な「モラルの荒廃」を招いてると抗議し、ただち新賃金制度を廃止し、年齢別一律を基本とする賃金制度に移行するよう要求した。しかし、中村恒夫常務・労務担当取締役はこれを拒否した。

田崎氏について、社は18年6月末で特別解説委員の契約を解除していたが、社はその後も1年間にわたり、講演会やインターネットのニュースサイトへの寄稿など社業への協力と引き換えに、衆参両院や国会議員会館、中央省庁への出入りが可能になる国会記者証と国会バッジを貸与し、衆参両院や首相官邸のすぐそばにある国会記者会館の時事通信ブースの使用も認めていたことを明らかにした。中村労担はそうした田崎氏との関係も「今月(6月)末で一切、完璧に縁が切れる」と説明した。

社によると、田崎氏は特別解説委員でなくなった後も、記事の執筆やグループ会社の内外情勢調査会が主催する講演会の講師という形で社業に協力してきたという。中村労担は田崎氏が講演すると「集客がぜんぜん違う」と述べ、「有力なコンテンツ」だと評価した。インターネットで配信する寄稿コラム記事も「アクセス数が高い」とし、社が受けるメリットを具体的に挙げた。

これに対し、労働者委は「時事通信でよく講演し、寄稿もする(外部の)人が自分にも記者証を出してくれと言われて(出すのかと言えば)出すわけがない」と指摘。時事通信に経済的メリットがあることが、国会記者証などの便宜を外部者に供与する正当な理由にはなりえないと強調した。

田崎氏は言うまでもなく、既に時事通信の社員ではなく、特別解説委員の肩書きもなくなった外部者である。報道機関としての時事通信に割り当てられた国会記者証やバッジ、国会記者会館の記者室などを田崎氏に貸与したのは、時事通信が自己の利益のために報道機関に与えられた公的制度を「私的に流用」したのと同義だ。また、時事通信の社員資格や肩書きを持たない田崎氏が、自身の利益のために、報道機関としての時事通信に付与された公的制度を利用することも私的流用に当たると指摘した。つまり、時事通信と田崎氏は持ちつ持たれつの関係で、公的制度を過去1年にわたり「私物化した」と指弾されても仕方ないのである。

国会記者証には記者個人の顔写真と氏名、所属社名が刷り込まれている。外部者である田崎氏が「時事通信」を名乗り、国会議事堂や政府内で堂々と取材するのは、制度の趣旨を著しく逸脱し、歪曲する行為以外の何ものでもない。

安倍政権を過剰なまでに擁護し、社に多数の抗議電話などが寄せられる原因となってきた田崎氏に時事通信を名乗られることは、報道機関としての恥である。我々の抗議の結果、ようやく「特別解説委員」の契約を解除したと思っていたが、社はその後もさらに恥の上塗りを重ねていた。労働者委は「有力コンテンツだから」田崎氏に国会記者証などを貸与してきたとする社に対し、「公のものを自分の会社のために私的に利用しているんです、と言っているのと一緒だ」と批判した。


2019年4月12日
団体交渉報告
大室社長、「法律順守」強調も具体策欠くー働き方改革法施行
労働者委「抽象論は歯止めにならない」
社提案の「裁量労働制」に改めて反対

時事通信労働者委員会は4月12日、改正労働基準法など「働き方改革関連法」が同月から施行されたことを受け、大室真生・時事通信社長が出席する団体交渉を社と開催した。記者の長時間労働が常態化する中、どのように法律を順守していくのか考え方をただしたが、社側の説明は具体性を欠いた。

◼️踏み込み不足の労働時間削減策
改正労基法は時間外勤務の上限を原則1カ月当たり45時間、例外に限り同60時間などとする内容で、記者の労働実態に照らすと、順守は容易でない。労働者委は「劇的な体制の見直しが必要となる」と指摘し、大室社長に取り組みをただした。

大室社長は「会社として法規をきちんと順守する方針」と表明。その上で、(1)従業員の健康維持の観点から、長時間労働是正に取り組み、時間外労働規制を順守する (2)休日・時短休の消化を徹底し、やむを得ず出勤した場合は2週間以内に代休を取得する。年次有給休暇は1年5日以上必ず取得する(3)労働時間の短縮、負担軽減を図るため、(公人に自宅などで夜間に取材する)「夜回り」など取材の在り方も含めて適正化、効率化に向けて見直しを行い、随時実行に移す (4)裁量労働制を導入した場合でも出退勤管理の新システムを通じて労働時間の把握を続け、みなし労働時間の水準に収まるよう努める (5)ノー残業デーを月1回以上実施するーーと説明した。

このほか、編集局の方針として (1)法令を順守し、違法な長時間労働は行わない (2)繁忙職場においてはこれまでの常識にとらわれることなく仕事のやり方を根本から見直すことによって(残業時間の)上限規制に対応する (3)仕事を一律に削減することは難しいが、その日の仕事の優先順位を見極め、不要不急の案件は翌日以降に回すなどケースごとに柔軟に行う (4)過剰なサービスや読者ニーズの低いコンテンツは費用対効果や読者への影響を勘案した上で、廃止または大幅な圧縮商談をするーーなどを挙げた。

◼️抜本的な発想転換、人員増が不可欠
記者が政府・企業幹部などの自宅で夜間に接触し取材する「夜回り」の常態化は長時間労働の温床になる。夜回りについて大室社長は「緊急かつ重大な取材案件が生じた場合であり、取材対象者に自宅で接触する以外に情報の入手や確認が見込めない場合、または所属長が必要と判断した場合を除き、原則として行わない」とした。

これに対し、労働者委が「今の基準と何の変わりもないのではないか」と疑問を呈すると、大室社長は「本当は所属長に許可を得るのが原則だが、実態は自分の判断で回していると思う。それとは違う」と答えた。労働者委はさらに「所属長が全責任を持って残ってウオッチするということか」とただしたが、大室社長は「残ってウオッチすることとイコールではない」と述べた。

現状では、記者が夜回りに行く場合、その旨をデスクに伝えるケースがほとんど。労働者委は事件・事故などの緊急事態や、企業のトップ人事の決定・発表が近づいているなどの状況に対応するため、「働き方改革関連法の規定より(時間外労働が)多くなっている」ことを指摘。「抽象論ではほとんど歯止めにならない」とし、具体性を欠く社の説明に重大な疑問を示した。

さらに「きちんと労働基準法を重視するのであれば、人を増やすことも考えなければいけない」とし、現場記者の人数を増やすよう求めた。

これに対し社長は、政治部で首相の動向を取材する「首相番」の担当者を4人から6人に増やし、取材時間を深夜0時までから午後10時までに繰り上げたことや、労働時間の管理をしやすくする社内の出退勤管理システムの改修についても説明した。しかし、単に首相番の対象範囲を広げるだけで、全体として人員を増やさなければ、どこかにしわ寄せがいくにすぎない。社長が説明した抽象的かつ小手先の対応では、改正労基法は乗り切れない。抜本的ƒな発想の転換と、人員増が不可欠である。

◼️裁量労働制は長時間労働の隠れみの
一方、社は記者を対象とする「裁量労働制」を提案中だ。労働者委はこれについて「必要がない」と重ねて反対した。社長は「ご主張は存じ上げているが、会社としては新聞記者の働き方に適した制度であると考えているので、導入したいと考えている」と言い放った。

社の裁量労働制案は、各記者クラブごとの残業の実態を踏まえ、繁忙職場では「毎月55時間」などの残業をしたとみなすもの。「原則月45時間、例外に限り同60時間」とする現行法の趣旨を著しく踏みにじる脱法行為であり、長時間労働の隠れみの以外の何ものでもない。労働者委はただちに「記者の労働形態に合っていない」と抗議。社長はここで団交から退席したが、労働者委はその後も中村恒夫常務・労務担当取締役に対し「把握した時間で給料を払えば良いだけだ」と強調し、「法律を順守する体制を確立するためにも、むしろ導入しない方がよい」と改めて同制度に強く反対した。


2018年12月18日
団体交渉報告

記者の裁量労働制導入に反対―労働者委
社の開示データで寒々しい残業実態明らかに
違法状態温存は「働き方改革」の本質に逆行


時事通信社は2018年12月18日の団体交渉で、時事通信労働者委員会に対し、記者職の従業員を対象とする「裁量労働制」に関する協定の修正案を示した。同制度は実際に記者が働いた時間にかかわらず、あらかじめ職場ごとに定めた「みなし労働時間」勤務したものとし、対応する賃金を支払う内容。13年8月に最初の提案があったが、労働者委は当初から反対。職場の理解も得られず、導入に至っていない。

社の協定修正案によると、記者クラブや取材拠点ごとの職場を労働時間が長い順に「特A」「A」「B」「C」「D」「E」「F」にグループ分けし、みなし労働時間を設定。今回の見直し提案で、職場のグループ分けの割り振りや、みなし労働時間の数字を変更した。

この結果、グループごとの1カ月当たりのみなし残業時間は、特A(政治部の野党クラブ以外の記者クラブ、社会部の警視庁、検察の記者クラブ)が55時間、A(政治部の野党。社会部の警察庁、司法など)55時間、B(経済部の財界、日銀、内閣府、財務省など。運動部のプロ野球、ゴルフ以外など)33時間、C(内政部の総務、厚労、国交省など)22時間、D(文化特信部、大阪・名古屋支社の警察以外など地方の支社、総局など)16.5時間、E(横浜、千葉などの地方総支局)11時間、F(経済部の一部や水産部、その他の地方支局)5.5時間だった。

さらに修正案は、特Aに対しては社員の五つの等級に応じて月9万円~5万円、それに以外のグループには月5万5000円~3万5000円の調整手当を支給するとした。

グループごとの労働時間はBが前回提案(27.5時間)よりも増えているが、各グループの見直しを行った結果、みなし労働時間の長いクラブから短いクラブに「格下げ」する記者クラブや取材拠点が続出したため、多くの職場で前回提案時よりも労働時間が短く算定されている。

中村恒夫常務・労務担当は「この5年間、超勤時間がおしなべて下降傾向にあり、実態を踏まえて変更した」と説明した。

さらに社側は「法律上、月当たりの残業時間を55時間以上に設定できない。これまでの残業代に比べて収入の減りが激しい部分がある」として、調整手当を支給するのは収入の穴埋めのためであることを明らかにした。金額は月20~30時間の残業代に相当し、これにより、人件費は全体で2割増えるとした。

多くの職場でみなし残業時間を減らした根拠として、編集局の各部と地方の支社、総支局の過去の1カ月当たりの「平均超勤時間」を示した。主なものを見ると、政治部は12年4月~13年3月の99時間から17年8月~18年7月の87時間に、社会部は74時間から58時間に、経済部は55時間から38時間にそれぞれ減少した。

労働者委は、実態の全容をつかむため、記者クラブ・取材拠点ごとの具体的な労働時間の記録を示すよう求めたが、社はこれを拒否した。

それにしても社が開示した労働時間のデータは心胆寒からしめるものである。特に政治部の直近の残業時間である月87時間は、過労死ラインと言われる月80時間を優に超え、年間に直すと1044時間にもなる。社会部、経済部も繁忙を極める記者クラブや取材拠点の労働実態は政治部に準じる過酷なものであることは容易に想像できる。言葉通りの「殺人的」状況に置かれている。

こうした労働環境は、改正労基法の施行によって今年4月導入される時間外労働の上限規制(月45時間、年360時間を原則とし、特別な事情があっても年720時間まで、単月で月100時間未満、2~6カ月で平均80時間以内)に明らかに違反する。

社が裁量労働制を導入する意図は明らかである。抜本的に残業時間を減らして改正労基法に適応する道を放棄し、現在の単純労働時間制を止め、裁量労働制を導入することで違法行為が明確になることを回避しようとしているのである。つまり現実の問題点を是正するのではなく、制度を変えることで違法状態を糊塗し、温存しようとしているのではないか。労働者委は「これは事実上の脱法行為ではないか」と指摘し、「残業を減らすのが趣旨であれば、各職場で現行制度のまま、始業時間と終業時間をきちっと記録し、残業を減らす努力を図るべきだ」と社に迫った。

これに対し、社は「労働時間の把握をやめるわけではなく、(制度案は)労働基準監督署のお墨付きを得ている」と主張。「事実上の脱法行為」との指摘には「見解の相違だ」と言い張り、突っぱねた。

社がこのような制度案を職場に押しつけようとする行為は言語道断である。長時間労働の是正など「働き方改革」の本質とは無関係であり、むしろ逆行する暴挙と言わざるを得ない。

労働者委は裁量労働制の導入に強く反対する。労働時間をあいまいにする裁量労働制に移行すれば、いずれ過労死が現実のものになるのは必至である。団交で労働者委は、労働時間を削減するため取り組むべき改革の一例として「政治家に長時間くっついているような取材はむしろ日本の政治とジャーナリズムを悪くしており、やめさせた方がよほど良いのではないか」と指摘した。また、体力が落ちても知力と経験、人脈を駆使して、キャリアの最後まで記者として仕事を全うできる人材の活用を行うよう社に求めた。改正労基法の施行を機に、社は記者の取材や仕事の内容を抜本的に見直し、報道機関としてのレベルアップを図るべきである。それなくして、赤字経営と事業先細りの螺旋からの脱却、時事通信の再生はない。


2018年12月6日
団体交渉報告
12億円超の大幅営業赤字、売上高84億円に減少
格差拡大の新賃金制度、破たん明らかー18年度中間決算
社「低評価社員のやる気向上が課題」、組合「即刻廃止を」


時事通信社は12月6日、時事通信労働者委員会との団体交渉で、2018年度中間決算(4〜9月期)の業績を説明した。売上高は金融情報サービスを中心に通信収入が落ち込んだことなどにより、前年同期比1.7%減の84億円、営業損益は12億4500万円の赤字(前年同期9億5500万円の赤字)、経常損益は4億700万円の赤字(同1億5100万円の赤字)、純損益は3億9200万円の赤字(同3億9100万円の赤字)となり、業績は大幅に悪化した。

社は2015年10月、労働者委の強い反対を押し切り、社内の賃金格差を大幅に広げ、中高年の一般社員の給料を大幅に減額する人事・給与制度「役割等級制度」を強行実施した。社業の活性化につなげるなどとしていたが、制度導入から3年にして業績は減収と巨額の損失拡大という体たらくである。

こうした経営状況を背景に、労働者委の冬季一時金要求に対する社の回答は、基本給の1.36カ月分をベースとし、これに役割等級制度に基づく前年の職務評定結果に応じて1.2~0.8を掛けた額を支給する内容。減額される社員は最大2割の大幅カットを受け、支給額に1.5倍もの格差が生じる状態が続いている。労働者委はこうした一時金回答に強く抗議し、労働者委が要求する年齢別一律の賃金体系に基づいて抜本的に見直し、修正・再回答するよう要求した。

この格差が及ぼす生活への影響は甚大である。労働者委はかねてから「減額は非行をして処罰されるのと同じだ」と批判。近年、社が大株主となっている電通が配当水準を大幅に引き上げていることにも触れ、「電通株の配当が10億円前後増えてなお赤字経営をやっている経営者が、なぜ人の賃金をカットするのか」と徹底的に抗議してきた。しかも、この役割等級制度は人事評価の結果をSS〜Eまで7段階の総合評語などで社員に通知するが、評価項目ごとの配点は知らされず、社員にとってはどこがどのように悪かったのか、あるいは良かったのか分からない仕組みになっている。制度は著しく透明性を欠いており、ほとんどの社員は減額に納得していない。

労働者委が団交で実施から3年を経た役割等級制度の運営について「うまく行っているのか」と質すと、中村恒夫常務・労務担当は「定着している」と述べるとともに、「評定の低い人のモチベーションをどう上げるかは課題になっている」と語った。

中村労担の発言は、低い評価を受けた社員がやる気を失っていることを認めたものだ。それはそうだろう。これほどまでに過酷な賃金格差の給与体系を実行し、幹部社員が高給を食んでいるにもかかわらず、売り上げの15%に匹敵する巨額の営業赤字を出しているのである。低評価された一般社員がどうしてやる気を出せるのというか。しかも、幹部社員に対する高評価を下しているのは、経営責任を負う取締役会である。これで役割等級制度が「定着している」などと強弁するのは、見当外れもはなはだしい。労働者委はじめこの制度の廃止を求める従業員の声を単に無視しているに過ぎないからだ。

一連の中村労担の発言には呆れるばかりである。現取締役会が課題を克服する方法を見つけ、実行する能力があるとは到底思えない。「どうせ社の経営陣と幹部社員には無理」との諦めムードが社内に共有されるのは必定である。時事通信は今後、モラルハザードが深化し、社員の士気はますます下がり、業績の押し下げ要因として機能し続けることだろう。

これを食い止め、経営危機から脱却するためにも、基本給や一時金に甚大な格差をつける、不当な役割等級制度は、即刻廃止するほかないのである。


2018年7月5日
「電通株依存」の経営を徹底批判
大室社長、3年ぶり経常赤字に打開策示せず
遅きに失した田崎特別解説委員の契約打ち切りに抗議ー労働者委


時事通信労働者委員会は7月5日、社と団体交渉を行い、大室真生社長が出席した。大室氏は時事通信が2017年度に経常損益が3年ぶりの赤字に陥ったことについて「社員には頑張っていただいたが、最終的に私の責任で赤字になった。申し訳ない」と述べて陳謝した。労働者委は社の経営が2015、16両年度に経常黒字を確保していたとはいえ、電通株の配当増に依存するものだったと指摘。「経営の実態は決して良くなっていない」とクギを刺し、「巨額の営業赤字からの脱却」という本来の課題を直視して経営に取り組むよう求めた。

また社は、田崎史郎・時事通信特別解説委員との契約を6月末で打ち切ったことを明らかにした。大室氏はその理由について田崎氏の年齢が内規で定める同ポストの上限の68歳に達したことを挙げた。田崎氏は、テレビを中心に安倍政権寄りに偏向した言論活動を行い、社内外から批判が絶えず、労働者委が早急に解任するよう要求してきた。労働者委は、遅きに失した社の対応に強く抗議した。

社は今年6月に策定した新たな中期経営計画(2018~2020年度)で「安定的な経常黒字を実現」することを経営目標の柱の一つに掲げた。社の業績は2015年度、電通株の受取配当金が19億円と、前年度に比べ約13億円増加した。この結果、同年度決算は売上高が前年度比1.0%減の177億1800万円、営業損益は16億3600万円と依然として高水準の赤字だったにも関わらず、経常損益はようやく3億3700万円の黒字となり、長年の赤字からわずかに水面上に浮上した。2016年度以降も配当金は2014年度比約10億円高い水準が続いてきたものの、2017年度は売上高が2015年度を下回る176億4100万円に減少、営業損益は3年ぶりに2000万円の赤字に転落した。

社によると、2018年度も減収と経常損失の拡大が続く見通し。労働者委が「『安定的な経常黒字』を目指すと言っていて、こんなに赤字になるのか」と質したのに対し、大室氏は「特にメガバンクの経営環境から(金融機関向け情報サービスの)減額要請があり、厳しい」と釈明。2019年度以降は経常黒字化すると述べたが、その道筋の説明は具体性を欠いた。

本業のもうけを示す営業損益は依然、巨額の赤字を続けている。労働者委は「経常損益段階で10億円単位の上乗せ要因がありながら、赤字を計上した責任は重い」と経営責任を追及した。社が策定した中期計画では、今後も同程度の配当金収入を見込んでいる。労働者委は「営業黒字にするにはどうするのか課題を直視し、もう1回計画を作り直すべきだ」と求めたが、大室氏はこれを拒否した。

一方、田崎氏との契約を打ち切ったことについて、大室氏は「内規で定める満68歳に達したため」と説明、さらに特別解説委員の上限年齢68歳は社長の上限年齢と同じであることを明らかにした。これは常務や一般取締役の上限年齢を上回っており、特別解説委員というポストの重さを示唆するもので、こうしたポストに中立・公正を疑われる人物を据えたことは、権力を監視すべき報道機関として致命的な失策であり、取締役会の責任は極めて重い。

社は中期経営計画で、「中立・公正で偏らない報道に徹する」とする基本方針を掲げた。労働者委は「(田崎氏の言論活動が)時事通信を傷つけたとの反省の上に、『中立・公正』と謳ったのか」と質したが、大室氏は「それは全く関係ありません」と否定した。田崎氏のテレビなどでの言論についてどう考えるか質すと、「私が見ている時は問題なかった」などと釈明した。田崎氏の言論活動については時事通信に多くの苦情が寄せられ、編集局などでは応じ切れないため、苦情処理窓口を社長室に移したほどだ。労働者委は、田崎氏に社の正式ポストである「解説委員」を上回るかのような「特別解説委員」なるポストを与え、国会記者会館での記者室の使用などの便宜供与をしてきた社の対応を問題視し、早急に特別解説委員を解任するよう要求してきた。内規の上限年齢満了まで契約を続けてきた社に対し、労働者委は抗議した。

社が労働者委の夏季一時金要求に対して示した回答は、基本給の1.36カ月分をベースとし、これに新人事制度「役割等級制度」に基づく前年の職務評定結果に応じて1.2~0.8を掛けた額を支給する内容。減額される社員は最大2割の大幅カットを受け、支給額に1.5倍もの格差が生じることになる。

これが及ぼす生活への影響は甚大である。労働者委は「減額は非行をして処罰されるのと同じだ」と抗議。「電通株の配当が10億円単位で増えてなお赤字経営をやっている経営者が、なぜ人の賃金をカットするのか」と疑義を呈した。さらに、制度上、社員に知らされるのは職務評定の最終的な結果のみで、内訳の配点などは開示されず、著しく透明性を欠いており、ほとんどの社員は減額に納得していない。労働者委は社に対し、一時金に甚大な格差をつける不当な賃金制度を即刻、廃止するよう強く求めた。


団体交渉報告
2018年6月13日

19年連続営業赤字、4年ぶり減収:社の2017年度決算
労担「人事制度は業績良くするためでない」と強弁
労働者委、西沢前社長の顧問就任に反対


時事通信労働者委員会は6月13日、2018年春闘要求などをテーマに時事通信社と団体交渉を開催した。社は労働者委の反対にも関わらず2015年秋に強行実施した、中高年一般社員の収入を引き下げ、社員間の賃金格差を大幅に拡大する賃金・人事制度「役割等級制度」の廃止をはじめ、労働者委の要求にことごとくゼロ回答で応じた。
社は2017年度 の業績について、売上高が銀行大手に対する情報サービスの落ち込みを主因に、前年度比2.0%減で4年ぶり減収の176億円となり、営業損益は16億9100万円の巨額損失を計上したことを明らかにした。売上高はバブル崩壊後で最低だった13年度(176億円)と同水準。営業赤字は19年連続で、赤字幅は同1億7800万円悪化した。

経常損益は保有する電通株の配当金が13億円程度あったものの、2000万円の損失となり、3年ぶりの赤字に転落した。

社は役割等級制度の実施により、社業を活性化させると高らかに喧伝してきた。労働者委が「新人事制度を導入したのにどうして業績がこんな体たらくなのか」と質すと、中村恒夫取締役労務担当は「(人事)制度は業績を良くするために導入したわけではない」と強弁した。労働者委は驚きを禁じ得ず、「(仮に新制度によって)会社が活性化しても業績につなげられないとすれば、取締役会がよほど愚鈍だということにしかならない」と追及したが、中村氏は「業績が悪化したのは取締役会の責任だ」と認める一方、「あくまで成果を残した人に報いる制度であり、人事制度と業績は連動しない」と繰り返した。

社は人事制度の見直しで、中高年の一般社員の給与を大幅に切り下げ、さらに評定結果によって賞与の支給額を増減させる仕組みを強行した。社の経営陣は役割等級制度を核とする人事制度に基づいて昇格した者が務めており、社員を評価し、その所得に大幅な格差をつけている張本人が業績を悪化させている事実こそ、制度の破綻を物語っている。

役割等級制度における人事評定のプロセスは極めて不透明であり、収入格差の拡大には大部分の社員が納得していない。労働者委は、同制度を即時撤廃し、年齢別一律給を基礎とする人事・給与制度に移行するよう改めて求めた。

一方、この日の団交で、社は、同制度の実施を当時の社長として強引に進めた西沢豊前社長を顧問に就かせる人事を検討していることを明らかにした。西沢氏は、社が2010年度の全期間において「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)を締結しないまま、従業員に時間外労働や休日労働を行わせた当時の労務担当取締役で、順法精神が著しく欠如している。団交の場でも、組合代表を「お前」呼ばわりする暴言を吐くなど、「社の顔」としての役割が求められる顧問として不適格であることは明白だ。労働者委は、西沢氏を顧問とする人事案に強く反対し、即座に撤回するよう要求した。


団体交渉報告
2017年7月19日

田崎氏の「特別解説委員」打ち切り要求 労働者委
社、「考えなければいけない」検討を表明
目に余る政権寄り言論、「時事通信の恥」
夏季一時金、8年連続の超低水準に抗議

機関紙「IMAGE(イマージュ)」紙バージョン
(社側とのやりとり一部掲載)


時事通信労働者委員会は7月19日、時事通信社と団体交渉を開いた。団交では、時事通信の政治部記者・次長などを経て解説委員を最後に退社し、現在、テレビや新聞、書籍で「時事通信特別解説委員」の肩書きを使用している田崎史郎氏の扱いや、夏季一時金などをめぐり社と協議・交渉した。労働者委は、田崎氏の言論活動が安倍政権にあまりに近いと巷間受け止められ、実際に政権寄りと認められると指摘。最近のテレビでの言論活動などを具体的に紹介し、目に余る田崎氏の権力べったりの姿勢は「時事通信の恥」だと批判した。その上で「あたかも時事通信社が政権寄りと受け止められかねない」「政権にあまりにも近いと言われるのは報道機関として致命的だ」と強調。「この肩書きはやめてもらうべきだ」と田崎氏の処遇を打ち切るよう求めた。

これに対し、中村恒夫労務担当取締役は田崎氏の扱いについて「考えなければいけないことだと思う」と述べ、社としても今後、特別解説委員の打ち切りについて検討する考えを示した。

労働者委はまず、「時事通信特別解説委員」の肩書きを持つ田崎氏と社との関係について中村労担に質問した。

中村労担は、田崎氏が60歳で定年退職した後、65歳までのシニア嘱託社員も既に終え、現在67歳となっており、社と田崎氏との間に「雇用関係は特にない」ことを明らかにした。また「特別解説委員」は社の内規で定めており、「会社が認めた者」に限り名乗ることを認めるもので、田崎氏が65歳を過ぎた約2年前から設け、田崎氏は特別解説委員の「第1号」となっていると説明。また、社は給与や報酬を支給しない一方で、国会記者会館のスペース使用や記者証などの便宜供与を行っていることを認めた。さらに、関連会社の「内外情勢調査会」が開く講演会で首相が講演する際に依頼する役割も担っていると語った。

労働者委は、社の従業員でもない者が時事通信の名称と、就業規則上の定めがない「特別解説委員」なる肩書きを使い、あたかも時事通信を代表しているが如きに取材し、言論活動を展開していることに「それは不明朗だ」と指摘した。さらに、内規の開示を求めたが、社はこれを拒否した。

テレビや雑誌、さらには時事通信のメディアでも「時事通信特別解説委員」として言論活動をしているにもかかわらず、労働組合に対し「特別解説委員」に関する内規を開示しないのは常軌を逸している。

労働者委が、社と田崎氏が直接の雇用関係を持たなくとも、田崎氏が「特別解説委員」の肩書きを名乗れば、社会からは時事を代表していると理解されると指摘すると、中村労担は「それはそうだろう。そう思うのは分かる」と語った。

さらに労働者委は、田崎氏の言説によって「時事通信は安倍政権寄りなのだと思われている」とし、「マスコミの役割は権力のチェックであり、政権にあまりにも近い会社だと言われることは報道機関として致命的だ」と問題点を明確にした。その上で「時事の肩書きを名乗るのはやめてもらうべきだ」と述べ、社に田崎氏との関係を解消するよう要求した。

これに対し、中村労担は「田崎特別解説委員の取り扱いについて労働者委員会から再考すべきだとの話があったことは承った」と応じた。その上で「どうするかというのは直ちには言えないが、今後の検討課題、検討課題と言ってはいけないのか、考えなきゃいけないことだと思う」と語り、田崎氏の特別解説委員打ち切りについて検討していく考えを表明した。

田崎氏の言論が過度に政権寄りとされることに関連し、中村労担は「(一般の人からの意見も)直接寄せられていないわけではない」とし、田崎氏の言論活動について時事通信に批判や抗議が寄せられている事実を明らかにした。また、一般論とした上で「政権というのは選挙の後にガラッと変わるものだ。一つの特定の政権につくと、ひっくり返った時にどうしようもないので、ビジネス上(のこと)を考えても好ましくない。もちろん報道機関的に好ましくないというのもある」との認識を示した。

一方、労働者委の夏季一時金要求に対し、社は基本給の1.345カ月分をベースとすると回答した。2016年度の経常損益が2期連続で黒字を確保したことなどを背景に、前年実績から0.01カ月分引き上げる。ただ、上げ幅は微々たるものに留まり、8年続く低水準に変わりはなく、社員の生活の苦しさは限界を超えている。労働者委は「水準があまりに低い」と抗議。「我々の要求にしたがい、増額回答すべきだ」と修正回答を求めた。

また社は17年4〜6月期の売上高が、利益額に影響しない契約体系の変更に伴う部分を除き、前年同期比で実質的に9000万円減となったことを明らかにした。顧客企業の統合や世論調査の受注減などが要因。半面、インターネットサイト「時事ドットコム」の広告や行政ニュースサービス「iJAMP」などは堅調に推移している。中村労担は通期の見通しについて「非常に厳しい状況にあるのは間違いない」と説明した。労働者委は社に対し、デジタル時代の新たな報道機関のビジョンと戦略を作り、抜本的に経営を立て直すよう要求。一般の人々を対象にした、報道機関ならではの生の資料・データの提供機能を併せ持つ本格的な総合ニュースサービスを創設するよう強く求めた。


団体交渉報告
2017年5月24日

新賃金制度の廃止拒否とベアゼロ回答に抗議
14億円の巨額営業で赤字責任追及 17年3月期
電通株売却益し不動産投資する社に警告


時事通信社は2017年春闘に関する5月24日の団体交渉で、時事通信労働者委員会に対し、賃金改定をめぐっては今期もベアゼロを回答するとともに、「年齢別本人給」を基礎とする賃金体系への移行と、2015年10月強行実施した新たな賃金・人事制度である「役割等級制度」廃止の要求をことごとく拒否した。労働者委は社の不当極まる賃金回答に「受け入れられない」と拒否。長年にわたるベアゼロ回答と役割等級制度への移行により、社員の給与はますます下がる一方であり、士気を損ねると抗議し、社に再回答を求めた。

社は春闘回答の背景説明として2017年3月期決算について説明した。売上高は前期比1.6%増の180億円と、わずかながら2期連続で増収となったものの、営業損益は14億4100万円の巨額な赤字を計上した。営業赤字は18期連続で、売上高の1割近くにもなる赤字幅は、本業が深刻な状態にあることを浮き彫りにした。

一方、経常損益は電通株の配当のおかげで前期に続きようやく2100万円(3億3700万円)の黒字となり、純損益もこれまた電通株の売却益によって25億円(2億6400万円)もの巨額な黒字になった。電通株の配当・売却益頼みの異常な経営体質はいまだに脱却できないどころか、ますますその色を濃くしている。

社は電通株の売却益で東京・中目黒の不動産物件(駅前のマンション)を購入した。中村恒夫取締役労務担当は「電通株と保有不動産の利回り比べ、不動産の方がはるかに利回りが高いため」と説明した。労働者委は物件の購入額を質したが、中村氏は「非開示」として答えなかった。巨額の営業赤字を出し、電通株の配当益でその穴埋めしている会社が、「虎の子」の同株を売って不慣れな不動産へ巨額投資し、高利運用を目論むなどもってのほかである。労働者委はこの不動産投資にこれまでも疑問を呈し、反対してきたが、重ねて社に警告・抗議した。

労働者委は電通株への依存経営を続ける大室取締役会の責任を追及した上で「14億円の営業赤字は依然深刻だ」と抗議、本業とかけ離れた不動産投資にうつつを抜かすのではなく、経営を立て直す抜本的な事業戦略を明示するよう改めて要求した。


団体交渉報告
2017年5月14日

社、大幅増員した専任部長の運用に失敗
新人事制度「設計に甘さ」認める
労働者委、賃金格差拡大に抗議

時事通信労働者委員会は4月24日、社が2015年10月に強行実施した人事制度「役割等級制度」における「専任部長」の勤務上の取り扱いについて団体交渉を行なった。社は制度開始時、出先記者が書く原稿を校正したり、出先と取材体制などを調整したりするデスク業務に当たる「次長」を廃止。部長級の専任部長を大幅に増やし、「2016年度まで」の経過措置として、輪番でデスクを担わせる方針を決め、「労働基準法上の管理監督者としては扱わない」として、職務手当に加え残業代も支給してきた。

しかし今年4月から就業規則を改定し、経過期間を「当分の間」に変更。労働者委は、新人事制度で一般社員に格下げしたデスクは基本給を大幅にカットし、職務手当を全面的に削減しながら、同様にデスク業務を行なう専任部長を手厚く処遇し、社内格差を拡大させている社に強く抗議。矛盾が露呈した新人事制度の即時廃止を重ねて要求した。

中村恒夫・取締役労務担当は団交で、輪番制のデスク業務を専任部長に続けさせていることについて「会社側の力不足」と語り、制度が社の想定した通りに進んでいない事実を認めた。その上で、「時事通信としての配信の仕事を続ける上でも、やってもらわざるをえないのが現実。規程を作った段階での見通しが甘かったと言われても仕方がない」と釈明し、導入当時の西沢取締役会の制度設計がずさんだったことに反省の弁を述べた。

社の説明によると、本社編集局の専任部長は現在、計25人。内訳は輪番でデスク業務に当たっている21人、活版(ニューズレター)の編集長3人などで、出稿各部の専任部長はほとんどが輪番デスクだ。労働者委は「本来は各部に何人いることを想定し、いつまでにその姿に移行する考えなのか」と質した。

中村労担は「専任部長はゼロというわけにはいかないが、減らしていく方向にはある」と回答。「期限を区切れるほどの見通しはなく、いつになるか分からない。はっきり言えないので、今回は期限を区切らない形で規程を変えた」と説明した。「経過期間」と言いながら、その期間がどの程度のものか見通しも立たないというのだから、驚きだ。中村労担が認めた通り、そもそもの制度設計に欠陥があったというほかない。

労働者委は、「部長級と言いつつデスクと同じ業務をやっているのであれば、専任部長の任を解いて早急に減らすか、残業代が職制手当を上回った部分についてのみ支給するようにしなければおかしい」と指摘した。中村労担は「部長と同格の地方支局長から本社に戻ってデスクワークを担当する場合があり、彼らの待遇を一気に変えることは困難だ」と弁明した。

社はまた、専任部長の職務手当の額が「月7万円台~9万円台」に上ることを明らかにした。さらに、その職務内容については「原稿の処理はあるが、例えば企画モノをやろう、という時に先陣を切ってやろうということ(を期待していた)」「経済部であれば『ビットコイン』問題を取材しようという時、誰の担当か分からない。日銀か流通か経産省か。そう言う時に誰かが主導的な役割をとる。例えば東芝問題で、誰が主体となるかと」「部における重大問題に取り組み、それを率いてもらうということだ」--などと述べた。

しかし、中村労担が言うような仕事は、専任部長が主たる業務としてやることだろうか。このような活動こそ、現場記者とデスクが日頃から考え、互いに意見を交わしながら、現場主導で進めていくべきではないのか。そもそも、これまでそうしてきたのではなかったのか。このような仕事のために敢えて専任部長を増やす必要がどこにあるだろう。中高年の一般社員の賃金を底上げし、生活を安定させた上で、ジャーナリズム活動への高い参画意識を促すことこそ優先事項であるはずだ。

社は新制度実施に伴い、基本給の体系を根本的に改めた。中高年の一般社員の基本給を激烈に引き下げる一方、幹部職制は大幅に引き上げた。生涯賃金でみた場合の社内格差は数千万円単位のオーダーで変化した。その上、部長級には月額7~9万円程度の職務手当を支払い、高水準の基本給をベースとする残業手当も支給するという。これで基本給を不当にもカットされた一般社員が納得するだろうか。部長級を過剰に厚遇するのでなく、その分を一般社員に回すべきではないのか。

社の報道活動を支えているのは一部の職制ではなく、現場で一つひとつの仕事を真面目にこなす一般社員であり、その士気の高い報道機関であってこそ高い創造性と活力を持つことができる。ポストや給料に格差を付ければ従業員がより働くようになり、業績が上がるなどという単純思考は根本的に誤っている。新人事制度は、労働者委がこれまで再三再四、指摘してきた通り、前西沢取締役会による時事通信の破壊行為以外の何物でもない。

労働者委は「一昨年から言っているが、新制度導入にかかる矛盾の一つであり、鳴り物入りで進めた人事制度の部長級についてこういうことが起きるのはどういうことか」と批判した。さらに「中高年は圧倒的に(賃金を)減らされている人が多い中、このようなことが起きるのは、人事制度の正当性を疑わしめるのに十分だ。早急に改善するというより、さっさと新制度をやめて原状回復すべきだ。格差をつければ業績が上がるなどいうことには絶対にならない」と抗議した。

一方、労働者委は団交で、社が専門契約社員などに関する就業規則を4月1日付で変更するとの提案を、もう一方の時事通信労働組合には2月初旬に提案しながら、労働者委には3月24日と、2カ月近く遅れて提案したことを厳重に抗議した。これは1999年に東京都地方労働委員会(現・東京都労働委員会)の場で、時事労組と団交で差別しないことを定めた「あっせん和解協定」違反である。

中村労担は「こういう事態に至り、申し訳ないと思います」と謝罪。「今後こういうことがないよう体制を見直し、チェックしますので、今回の件はご容赦願いたい」と再発防止を誓約した。



団体交渉報告
2016年12月1−9日

冬季一時金、7年続く超低水準に抗議―労働者委
透明性欠く賃金・人事制度の撤回を重ねて要求

時事通信労働者委員会は2016年12月1日と9日、社が2015年10月に労働者委の反対にも関わらず強行実施した人事・給与制度「役割等級制度」への対応や冬季一時金をテーマに団体交渉を行った。社はこの中で、今上期の業績について、依然として巨額の営業・経常赤字を続けたことを明らかにした。この結果、冬のボーナスは基本給の1.335カ月をベースとする超低水準にとどまった。

社はお手盛り賃金制度の強行により、幹部の給料を一方的にアップし、中高年を中心とする一般社員の所得を引き下げ、制度に反対する労働者委の声にも全く耳を傾けていない。労働者委は社の傲慢極まる態度に強く抗議した。

社によると、2016年9月中間決算は売上高がインターネット・サイト「時事ドットコム」の広告収入の回復などを受け前年同期比2.7%増収の89億円、営業損益は8億4400万円の赤字(前年同期は9億7300万円の赤字)、経常損益は2億200万円の赤字(3億100万円の赤字)だった。

社は保有する電通株を売却して17億円余りの特別利益を計上、純損益は13億5100万円の黒字(3億2200万円の赤字)だった。

超低額の一時金は7年続き、組合員の生活を強く圧迫している。到底容認できるものではなく、労働者委は抗議し、社員の努力により、わずかながら上期として2期ぶりに増収に転じたことを踏まえ、修正回答を行うよう求めた。


■人事評価過程の全面開示・労使交渉を要求

一方、社は今年11月、労働者委の荒木健次代表幹事と上仲保順代表幹事に対し、人事上の自己評価などを記載する「人事評価シート」を配布した。

労働者委は中高年の一般社員の賃金を大幅に引き下げ、生活を破壊する役割等級制度を一貫して反対してきた。自らの経営責任を棚上げし、社員の収入に格差を広げるこうした制度を強行してきた前西沢取締役会および現大室取締役会は文字通りの意味で「恥知らず」である。社は不当な不利益変更を強いる役割等級制度を即刻撤回すべきである。

労働者委が両日の団交で社と協議した結果、役割等級制度では、(1)人事評価シートに従業員本人が記載できるのは「就業状況」と「実績」に関する定性的な「自己評価、本人コメント」のみで、3次にわたる5段階評価の採点は直属の上司や幹部職制、取締役を入れた社の人事委員会が行う(2)人事評価シートは社に提出した後、まったく内容は開示されず、人事評価の結果だけが年度末に通知される--ことが判明した。

人事評価は、従業員の賃金および人事上の取り扱いを決定する、労働条件そのものである。労働条件は労使間の十分な協議によって決定せねばならず、社が一方的に決定することは許されてはならない。決定に至るプロセスすらも開示せず、労使交渉も拒絶する現行の人事評価制度は著しく不当であり、労組として到底受け入れられない。 

労働者委は「役割等級制度に基づく人事評価シートや面接は容認できない」と強調し、人事評価シートを社に返却した。その上で、人事評価については、少なくとも労使協議を経て決定するよう求め、労使協議の際に労働者委に戻し、内容を全面的に開示するよう要求した。


団体交渉報告
2016年11月2日
労働者委、不当労働行為問題などの解決を要求
大室社長、経営黒字化への道筋示せず
対話路線強調も不当人事制度の撤回拒否

時事通信労働者委員会は11月2日、時事通信社との間で、6月就任した大室真生社長(前常務労務担当)の出席を伴う団体交渉を開催した。労働者委との今後の労使関係について大室氏は「皆さんとの対話を重視する姿勢に変わりはない」と表明した。労働者委は「賃金差別問題をはじめ社と我々の間にはさまざまな問題が存在しており、引き続き話し合いによる解決を切に求める」とし、労働者委に対する賃金差別や不当労働行為問題など山積する課題を解決するよう要求した。

労働者委はまず、社が昨年10月、労使協定を一方的に破棄し、重大な不利益変更を伴う新たな賃金・人事制度「役割等級制度」を強行したことに抗議し、人事制度に関する考えをただした。大室氏は「制度の円滑な運用と定着に努力する」とあくまでも制度を変えない傲慢な態度を示す一方で、「制度に関しご意見があれば真摯に耳を傾けていきたい」と述べる白々しい回答を行った。労働者委は「この制度には(社の)提案時から言ってきた通り多くの問題があり、やればやるほど時事の衰退を早める」と批判し、即時撤回を強く求めた。

また月刊誌「文藝春秋」が7月号で、「読売新聞が時事通信を吸収合併する」との可能性を報じたことについて、大室氏の認識と同誌への対応について質問した。大室氏は「(報道は)根拠のない憶測」とし、抗議など特段の措置は取っていないことを明らかにした。労働者委は「そうであれば社として行動し、公式見解として否定する必要がある。世の中から見れば、何も言わなかったとしか見えない」と指摘、社としての見解・姿勢を社内外に明確にするよう求めた。それでも大室氏は「論評に値しない記事」などとし、対抗措置を取らないことを正当化する言動に終始したため、労働者委は抗議した。

社は2016年3月期まで17期連続で営業赤字を続けてきた。大室氏は今期(17年3月期)について、売上高178億円、経常損益で5億円余りの赤字との見通しを示すとともに、「上半期の売上高は前年を上回ったとみられる」と述べた。さらに現在の進捗状況に関しては「大きな上振れ、下振れの要因が起きている状況とは認識していない」と説明した。

社の今期の営業損益は18億円の赤字の見通しだ。労働者委が「経営においては本業の営業損益を重視すべきだ」と指摘し、どう黒字化するのか方針を明確にするよう求めた。これに対し、大室氏は「最終的には通信社本業での黒字を示すべきだが、ハードルが高い。まず第1段階として会社総体として経常段階で黒字にすることを目指し、その達成後に営業黒字を目指したい」と述べるのがやっとだった。今後の経営については「既存事業を底上げし、新規事業にも取り組み、新しい通信社像を設ける」とし、ニュースや出版、映像、デジタルなど既存コンテンツを企業や自治体のニーズに合わせて組み合わせ、提供するサービスに力を入れるとしたが、その説明ぶりは具体性と力強さに欠けた。

大室氏は、本業以外で、東京・中野の社宅を賃貸住居として運営し始めたのに続き、中目黒で賃貸事業を始めるため、マンションを購入したとし、電通株の売却と借り入れを財源に充てたことを明らかにした。「総務局総務部が担当し、実務は大手不動産系の企業に委託する」と説明したが、社内に不動産の専門家はいない。労働者委は得意分野でもない事業に電通株を売ってまで参入しようとする社の姿勢に重大なリスクが想定されることから強い疑義を呈した。

今年6月の株主総会で退任した西沢豊・前社長はその直後に相談役に就任した。西沢氏は自身が社長在任中の今年4月に就業規則の「職制規程」を変更し、「相談役」ポストの設置を決めた。これは「お手盛り」と言われても仕方のない人事である。この判断について大室氏は「日常的にアドバイスをいただき、内外情勢地調査会の会長としても活躍いただいている」と主張。西沢氏を相談役にした理由について「経営の継続性担保と、直前までの社長としての知見を生かしていただくため」と語った。

しかし、西沢氏は社長在任時代に大きな営業赤字を残したのであり、2016年3月期の経常黒字も、電通の決算期変更に伴う配当回数の増加と増配という特殊要因によって起きたに過ぎない。労働者委がこの点を指摘したが、大室氏は「経常黒字を達成したのも西沢さん。特殊要因があっても黒字にならないことはある」と強弁した。笑止千万とはこのことである。大室氏の西沢氏に対するゴマスリぶりは異常というほかなく、自身が社長であるとの認識が希薄なのではないかと疑わしめる。時事通信の再建はますます遠のいたと言わざるを得ない。


団体交渉報告
2016年7月8日

社、夏季一時金1.335カ月を回答
労働者委、新制度による格差拡大と低額回答に抗議
「増収経営、必須」中村新労担が表明

時事通信労働者委員会は7月8日、社と夏季一時金要求をテーマとする団体交渉を開いた。社は支給水準を基本給の1.335カ月(昨年1.3カ月)分をベースとする超低額回答を行った。一時金は長らく低水準が続き、社員が受忍できる限度を超えている。労働者委は低額回答に抗議し、修正回答を求めた。

社によると、支給総額は前年同期比900万円増の5億2100万円。社は昨年10月に強行実施した新賃金・人事制度の「役割等級制度」を今回から一時金にも反映させる。支給に際しては、評定結果が最高のSSから最低のEまでの7段階に応じて、SSとS=1.2、A=1.1、B=1.0、C =0.9、DとE=0.8の係数を乗じるとした。この結果、上位2ランクSSとSは、下位2ランクDとEの1.5倍にもなる。

制度上の係数はSS=1.4、E=0.6だが、今年度については移行措置として、社はSSとS、DとEをそれぞれ同じとし、1.2と0.8とした。社は来年度からは本来の制度に基づきSS=1.4、E=0.6とし、支給額に巨大な格差をつける方針を表明。そうなれば、最高ランクSSは最低ランクEの1.75倍にも達する。新制度によって、そもそも基本給に大きな格差が広がっており、一時金にまで強烈な格差をつける社の賃金政策によって、社内のモラルハザードが極限に達するのは必至だ。

一方で、社は2016年3月期まで17期連続で巨額の営業赤字を続けてきた。つまり、成果を全くあげられないばかりか、むしろ赤字により重い責任を負うべき社幹部が、裁量で社内の賃金格差を広げつつ、社内の富を自身により手厚く分配しているのだ。そこに一切の正当性はなく、制度の意義は根本から破綻している。

労働者委は、社が強行実施した、支給額の格差を広げる新賃金・人事制度に対し、「『働かない社員が多いせいで業績が悪く、彼らを徹底的に絞り上げることで業績が向上する』という考え方の上に成り立っている。そんなもので時事が良くなるか」と批判し、撤回するよう要求した。

これに対し、6月就任した中村恒夫取締役(労務担当)は「(社員を)絞り上げるという考え方は無い」と反論。今回の一時金支給水準について、2016年3月期にわずかに達成した売上高の増加を「社員に還元する」考え方に立ったと説明した。

また2016年3月期の決算で経常損益が黒字化した背景について「労働者委員会のホームページにも書かれていたが、(電通の決算期変更と増配に伴う配当収入の増加という)特殊な要因によるものだ」と指摘。「それが剥げると、経営の力不足で申し訳ないが、また経常黒字にするのは厳しい状況だ」と述べた。

中村氏は「今期以降に賞与支給額を経営悪化に伴い減らすことはできれば避けたい」とした上で、「当社のボーナスは業績連動型をはっきり組み込んでいるわけではなく、安定的な支給が考え方の底流にある」と理解を求めた。

さらに中村氏は社の経営について「ここ数年は過大な投資を圧縮し、収益を改善させることに努めてきたが、今後は投資するときには投資し、収入に力点を置いて危機的状況を脱することが必要だ」と強調した。「(危機を)脱することができなければ、厳しい将来が待ち構えている。労働者委が抱いている経営への危機感は、経営陣も共有している」とし、「(労務・総務担当兼務の取締役として)直接の事業(計画)には携わらないが、環境整備に取り組む」と語った。



団体交渉報告
2016年5月23日

社、格差広げる「役割等級制度」の廃止拒否
17期ぶりの経常黒字は電通株増配
続く巨額営業赤字に抗議=労働者委
大室労担の「定期昇給実施」は欺瞞的説明

時事通信労働者委員会は5月23日、社と2016年春闘要求について団体交渉を開いた。労働者委は社が2015年10月に強行実施した新賃金制度「役割等級制度」を廃止し、「年齢別本人給」を基礎とする賃金体系に移行し、支給水準を引き上げるよう求めたが、社は拒否すると回答した。

社の回答は、役割等級制度の強行を続けるとともに、新制度に移行しても依然としてベアゼロ。大室真生常務・労務担当は回答で、2016年度給与について、「定期昇給を実施する」と説明した。

しかし、これは疑問だ。役割等級制度では、基本給は年齢に応じて一律に支払われる「年齢別本人給」と、1~7等級の区分に応じた「役割給」で構成される。年齢別本人給は40歳で昇給がストップし、役割給は自動的に昇格する4等級社員は42歳で上限(22歳入社の場合)を迎え、それ以降は定年まで据え置かれる。5等級に昇格した社員(主要記者クラブのキャップ級)でも定昇は51歳で終わる。それ以降も定昇があるのは、部長級以上の6、7等級社員のみである。

荒木健次、上仲保順の労働者委両代表幹事は、5等級社員と4等級社員にそれぞれ位置づけられ、各等級の内訳で上限となる40号俸に達し、昇給は既にストップしている。それどころか、上仲代表幹事の場合、2015年10月から強行実施された同制度に基づく賃金は、それ以前の職能資格制度に基づく社の2015年度賃金回答と比べ、月額約2万5000円、年間換算で約30万円もの大幅賃下げとなった。2015年度は移行措置による補てんで実質的な支給額は据え置かれたが、16年度は昇格がない一方、補てん幅は半分に縮小するため、昇給どころか、逆に名実ともに賃下げの実施となる。

社がこのように多大な不利益変更を伴う賃金制度を組合の反対を押し切って強行しながら、労働者委との春闘団交で「定期昇給を実施する」などと説明するのは著しく誠実さを欠いており、欺瞞にほかならない。労働者委は強く抗議する。

一方、社は2015年度の決算を説明した。それによると、売上高は前期比0.1%増の177億円と2期連続の微増となったが、本業のもうけを示す営業損益は16億3600万円の赤字(前期は16億5215万円の赤字)で、実に17期連続の巨額損失を計上した。

経常損益は3億3700万円の黒字(前期は16億円5200万円の赤字)となり、17期ぶりの黒字を計上、純損益は2億8200万円の黒字(前期は9億8900万円の赤字)となった。社が経常損失と純損失を避けられた理由は、保有する電通株式の配当収入増にある。同社が増配するとともに、決算期変更に伴い配当を通常の年2回から3回としたためである。時事通信の本業が改善したからでは決してなく、「他力本願」かつ一時的な要因で黒字になったに過ぎない。西沢豊社長以下の経営陣が手腕を発揮した成果では全くない。

巨額の営業赤字が続く社の経営は、いわば多量の出血が依然として続いている状態にあり、これを一刻も早く止めなければ死あるのみだ。にもかかわらず、大室労担は「経営は改善している」などと言い張り、危機意識の欠如を露呈して恥じることはなかった。

労働者委は「改善しているなどとはとんでもないことだ」と抗議した。このような経営しかできない社幹部を厚遇し、その裁量による評定で社内の賃金格差を広げる役割等級制度の強行は、暴挙というほかない。社は同制度の実施を即座に停止し、労働者委の要求に基づき、年齢別本人給を基礎とする賃金体系に移行すべく、労使協議の場を設けるべきである。


団体交渉報告
2016年2月10日

労働者過半数代表者、1年不在明らかに
社、意見聴取なしで人事制度の改悪強行
順法精神欠如に強く抗議−−労働者委


時事通信労働者委員会は2月10日、社と団体交渉を開催した。社はこの中で、昨年4月から時事で働く従業員を代表する「過半数代表者」が不在だと明かした上で、今年2月24日から3月2日にかけ、代表者の選挙を社内の電子メールシステムを通じて実施することを提案してきた。社は昨年10月、給与格差を広げる新人事・給与制度「役割等級制度」を、労働者委の反対にも関わらず強行実施し、既に4カ月以上が経過した。労働基準法は、企業に対し、給与制度改定などに伴い就業規則を変更する場合、過半数代表者の意見を聴取し、労基署への制度変更届け出に添付するよう義務づけている。しかし、社はそもそも代表者が存在しないのを承知で、制度変更を強行していた。

労基法が定めるのは、企業が賃金規定など就業規則の変更を実施した場合、(1)労働者の過半数で組織する労働組合、またはこれが存在しない場合は労働者の過半数の代表者の意見を聴いた上で、(2)労働基準監督署に届け出るとともに、労働者に周知する——ことだ。

時事通信には現在、労働者委と、もう一方の時事通信労働組合という2つの労組があるが、いずれも過半数組合ではない。社の説明によると、過半数代表は、前任者の任期が昨年3月までの1年間で切れており、その後、不在状態となっている。社は労基法の規定を守ることができないことを認識しながら、制度変更を実行していたことになる。

そもそも労働者委は今年1月8日の団交で、社が新制度実施後も労基署に意見書を出していないことを確認した上で、労基法違反だと指摘した。これに対し、大室真生常務・労務担当は「(労基法を)順守している」「提出しないと言っているわけじゃなく、提出すると言ってますから」などと言い放った。ところが、労基法で義務づけられている、意見聴取の対象者である従業員代表の不在を知りながら、社員に多大な不利益変更をもたらす賃金制度の変更を一方的に実施したことが明らかになった。

この態度のどこが労基法を「順守している」ことになるのか。これでは違法行為の確信犯である。社の順法精神の欠如は甚だしく、全くもって論外だ。

労働者委は団交で「新人事制度を労基署に届ける際、意見を添付すべき従業員代表がいなかったということだ。いないことがわかっていながら、なぜ放置したのか」と質した。社は「準備ができれば極力早く選び、意見を出してもらうつもりだったが、想定より遅れてしまった。やろうとしたが、できなかったのが実態だ」と釈明した。労働者委は「従業員代表が居なくていいという認識は全くおかしい」と追及し、社の法軽視を強く批判した。


■秘密投票、守られず

また社は今回実施する過半数代表選挙について、空白状態を生じにくくするため、任期を前回の1年から改め、今年3月3日から18年3月2日までの2年と引き延ばすと説明した。

選挙方法については、各部の部長が記者クラブを回るなどし社員に投票を促した前回の「持ち回り方式」を廃止し、社が災害発生時に社員の安否を確認するため導入済みの電子メールシステムを使うとした。労務部が務める選挙事務局が、従業員宛ての社業用アドレスなどに投票用サイトのアドレスが掲載されたメールを送り、従業員が同サイトを通じて立候補者の信任・不信任を選び、送信する方法。有権者は役員を除く全従業員。立候補資格者は有権者のうち管理監督者を除く者で、5人の有権者から推薦署名を得た者。推薦人の氏名と立候補者の所見を社内公文書「全同文」で公表するとした。

前回のように、各部の部長が出先の記者クラブにいる社員記者ら1人ひとりを訪ね、用紙への記入を促すといった方式とは異なる。しかし、労務部が管理するシステムである以上、民主的な選挙に不可欠な「秘密投票の原則」は守られないことになる。

労働者委が「秘密投票が守られないのは問題ではないか」と疑問を呈したのに対し、社は「秘密投票が絶対要件とは解釈はされていないし、挙手などの方式も(一般的に)認められている」と述べ、問題はないとの認識を示した。

労働者委は、少なくとも投票の秘密を守るため、社が目的外閲覧を行わない旨誓約することや、制度上の工夫を行うよう要求。社は「システム上、難しい」と述べ、これを拒否した。

また社が前回選挙の際と同様、立候補の要件とした5人の推薦人について、労働者委は、少数派労組の立場から「必要ないのではないか」と改めて質した。しかし、社は「乱立を防ぐためだ」とし、推薦人を要件とするとの立場を崩さなかった。


2016年1月28日
社、新賃金制度の変更、労基署に届け出ず
労働者委の違法性指摘に「法順守」と居直り
新人事制度の非合理性を斬る

時事通信労働者委員会は1月8日、社が昨年10月から一方的に強行実施した賃金・人事制度や春闘要求に関する団体交渉を開いた。社はこの中で、「役割等級制度」の導入に伴い変更した就業規則を基準監督署に届け出ていないことを明らかにした。就業規則を変更した場合は労働基準法で届け出が義務づけられており、明らかな違法状態であり、社の順法精神欠如を強く物語る事実だ。労働者委が「違法行為だ」と指摘すると、社は「(労基法に)何カ月以内ということは書いていない」「(労基法を)順守している」と居直りの姿勢に終始した。

労基法は、常時10人以上労働者を働かせる企業に対し、賃金規定など就業規則の変更を実施した場合、(1)労働者の過半数で組織する労働組合、またはこれが存在しない場合は労働者の過半数の代表者の意見を聴いた上で、(2)労働基準監督署に届け出るとともに、労働者に周知する——ことを義務づけている。

違法だとの指摘に対し、社は「日程的に決まっているわけではないが、速やかに届け出る」と釈明した。労働者委が「既に3カ月以上が経っている」とし、「今は法律を守っている状態なのか」と追及すると、大室真生常務・労務担当は「そうです」と答え、「提出しないと言っているわけじゃなく、提出すると言ってますから」と開き直った。

社が就業規則の変更を届け出られないでいる理由は、はっきりしている。社は2013年度に新制度を提案した当初、14年度からの実施を目指すとしていたが、いったん先送りした。その後、15年度にも2度目の見送りを余儀なくされた。職場の理解を得られなかったからだ。15年10月にやむなく強行実施に踏み切ったが、制度の必要性、妥当性が説得力を持たないために、労働者委が反対していることはもちろん、もう一方の時事通信労働組合も、制度変更同意を機関決定しておらず、社は従業員代表の意見を添付することができていない。

労基法は、過半数労組または職場の過半数を占める労働者代表が反対する場合、企業はその意見を添付して変更届とともに提出しなければならない、と定めている。職場の理解を得られていない給与制度を奴隷に強制するように社員に命令で押しつけて、望ましい効果が期待できるわけがないのは普通の頭で考えれば、理解できることだ。まして時事通信は人権を何よりも擁護しなければならない報道機関である。社は自身のつくった制度が社員の賛同を得られていない現状があまりに恥ずかしく、労基署に制度変更を届け出ることができないでいるのだ。

労働者委はこのような社の対応について「法令に違反するようなことをやっちゃいけない。しかも、われわれの賃金に関することで、そういういい加減なことしかできないような制度の実施の仕方をしておいて。正式に組合の同意を取っていないからだ。とんでもないことだ」と抗議した。


■非科学的な評価の仕組み

社は新制度で、年度ごとの人事評定の結果を示す「総合評語」を以前の5段階から7段階に細分化し、全体に占める割合をそれぞれSS(5%)、S(10%)、A(20%)、B(30%)、C(20%)、D(10%)、E(5%)とした上で、賞与への反映度合いを拡大するとした。既に指摘した通り、その年度の個々の社員の働きぶりや、全体でみた仕事ぶりがどうであっても、常に評価結果を同じ割合に分布させる、という非現実的な設定であり、給与格差の自己目的化というほかない。

実際に学校で学力テストを実施するような場合でも、点数が上位から5%、10%、20%、30%、20%、10%、5%−−といった具合に分布するわけではない。それは職場においても同じだ。さらに、チームワークによって同業他社と競い、成果を出す報道機関の仕事にあっては、個々人の仕事を機械的手法で点数化し、賃金反映することは実質的に不可能である。


そもそも役割等級制度強行前の「職能等級制度」で導入した5段階評価自体に無理があった。社は評価が真ん中のCに集まる傾向を「中心化、寛大化」だとし、問題にした。

しかし、事実は逆である。実際には、社員の働きぶりと制度が想定する分布との乖離が著しかった。評価制度自体に無理があるため、現場で評価に携わる職制が運用によって評価を中心に近いところに集め、実態とかけ離れた制度の弊害を緩和してきたのだ。

大室労担は労働者委との2014年10月の団交で、新制度について「現実に立脚した評定制度を運営する」と強弁したが、労働者委が「現実に即すると何故、こういう数字になるのか。実態ではなく、作られた分布なのではないか」と疑問を呈すると、説明に窮して全く答えられなくなった。

社は非科学的で説明のつかない評価の仕組みを強行するため、昨秋以降、部長らと社員による面談まで実施することを決めたが(労働者委は人事制度自体について労使協議中であるため、面談への対応を留保)、これもさらなるウソの上塗りに過ぎない。社員にとっても、1次評価に携わる中間職制にとっても、雑務が増えるだけである。ただでさえ皆、忙しいのに、制度を正当化するために、評価される側とする側双方で無駄な仕事を増やし、全体の生産性を低下させているのだ。何たる愚行であろうか。

大室労担がひとつ覚えのように繰り返すのは、「仕事に報いる制度」というお題目のような「理念」。だが、5段階を7段階に細分化すれば、制度と実態とのかい離は一層大きくなる。このような非科学的仕組みで社員に正しく報いることができるわけがない。

そもそも記者1人ひとりには「良い記事を書いて世の中に貢献したい」「問題の本質に迫る新しい事実を誰よりも早く知り、人々に知らせたい」というアニマル・スピリットが宿っている。社に必要な施策があるとすれば、これを解放すること、これ「のみ」であると言ってよい。仕事に報いるためには、社員のライフ・ステージに応じた収入を長期的に保証することだ。記者も営業マンもエンジニアも、それによって「今、頑張ろう」という気持ちになるのだ。そして労使の不断の努力により、賃金水準を、仮に少しずつであっても、上げていくことが望ましい。労働者委が長年にわたって要求している「年齢別一律給」を基礎とする体系が報道機関には最もふさわしいのである。


■違法状態での強行が組織を破壊する

役割等級制度の強行実施は、就業規則よりも労働協約が優先することを定めた労働組合法や労基法などに違反するだけでなく、中高年の一般社員に対する常軌を逸した賃下げの不利益変更を伴う点で、労働契約法にも明確に違反している。言うまでもなく、このような違法性は偶然に起きるわけでも、軽視してよいわけでもない。

米国のジョージ・W・ブッシュ政権は2003年のイラク侵攻を前に、フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っていると主張し、武力行使のお墨付きとなる国連安全保障理事会の決議を得ようと画策した。その背景には、中東の中心に位置するイラクの政権を打倒し、民主化と市場主義経済を根付かせれば、それがドミノのように中東一帯に広がり、イスラム主義テロを撲滅できる、という新保守主義(ネオコン)による「理念」があった。しかしこの「理念」自体が実態からかけ離れた絵空事であったばかりか、米政権はそれを実現するための戦略と実力を欠いており、開戦理由と位置づけた大量破壊兵器疑惑も十分な証拠を示すことができなかった。そもそもの開戦自体に理由が乏しかったため、多くの国が賛同せず、米国は国連決議を得られなかった。

ブッシュ政権は決議なしで英国など「有志連合」を率いて強引にイラクに侵攻し、フセイン政権は打倒されたが、その後、現地側でも、有志連合側でも多数の命が犠牲となったことは周知の通りである。米国は巨額の戦費を費やした挙げ句に目的を達成できず、国民の疲弊と自信喪失を招いた。さらにイラク周辺地域は真の意味で混沌に陥り、イスラム過激組織によるテロは拡散し、今日に至っている。

翻って時事通信の現状を見る。賃金制度は労使関係の要諦だ。「仕事に報いる」という理念がもし仮に正しいとしても、「役割等級制度」がそれをもたらすと信用できる理由はどこにもない。社が職場の理解を得られないのは、このためだ。違法な制度の強行は、社の将来に大きな禍根を残すこと必定である。社はいったん新制度の実施を凍結し、労使で納得いくまであるべき仕組みについて協議し、制度内容を再構築し直した上で、実施し直すべきである。

 



~ARCHIVES(旧サイトより転載)~

 2019年6月19日
団体交渉報告
社、20期連続の営業損失、しかも大幅赤字の失態
田崎氏に特別解説委員の契約解除後も便宜供与
労働者委、格差拡大の賃金制度失敗と抗議


時事通信労働者委員会は6月19日、社と2019年春闘をテーマとする団体交渉を行った。社は2018年度決算で売上高が落ち込んだ上に、営業損失は20期連続となり、その赤字幅は売上高の1割を超える巨額に上ったことを明らかにした。賃金改定要求に対してはベアゼロを回答した。社は2015年10月に社が労働者委の強い反対を無視し、中高年の一般社員の賃金を不当にカットする人事・賃金制度「役割等級制度」を強行したが、最近の業績は悪化の一途をたどっている。労働者委は新賃金制度の破綻を指摘した上で、社の無責任経営に強く抗議するとともに、修正回答を要求した。

◾️「報道機関に対する公的制度の私的流用」
社は「特別解説委員」としての契約を昨年6月末で解除した田崎史郎氏について、「社として得るものがある」として、その後も国会記者証や国会バッジの貸与など取材の便宜を図ってきたことを明らかにした。労働者委は社に「田崎氏も時事通信も(国会記者証など)公的なものを私物化している」と強く批判した。

社の2018年度の業績は、売上高が金融系など情報サービスの落ち込みを主因に前期比2.0%減の172億円だった。営業損失は19億7300万円(前期は16億1900万円)と赤字幅が拡大。経常損失は3億9200万円(同2000万円)。純損益は電通株売却などで9億円余りの特別利益を捻出するなどし、2億4300万円の黒字(同3億8500万円の黒字)だった。

労働者委は社が新賃金制度を強行したにもかかわらず、業績がこれほど悪化したのは、同制度の導入が失敗だったからであり、このような体たらくの経営しかできないにもかかわらず、現取締役会と高給を受け取っている社幹部の責任は重いと批判。社全体に重大な「モラルの荒廃」を招いてると抗議し、ただち新賃金制度を廃止し、年齢別一律を基本とする賃金制度に移行するよう要求した。しかし、中村恒夫常務・労務担当取締役はこれを拒否した。

田崎氏について、社は18年6月末で特別解説委員の契約を解除していたが、社はその後も1年間にわたり、講演会やインターネットのニュースサイトへの寄稿など社業への協力と引き換えに、衆参両院や国会議員会館、中央省庁への出入りが可能になる国会記者証と国会バッジを貸与し、衆参両院や首相官邸のすぐそばにある国会記者会館の時事通信ブースの使用も認めていたことを明らかにした。中村労担はそうした田崎氏との関係も「今月(6月)末で一切、完璧に縁が切れる」と説明した。

社によると、田崎氏は特別解説委員でなくなった後も、記事の執筆やグループ会社の内外情勢調査会が主催する講演会の講師という形で社業に協力してきたという。中村労担は田崎氏が講演すると「集客がぜんぜん違う」と述べ、「有力なコンテンツ」だと評価した。インターネットで配信する寄稿コラム記事も「アクセス数が高い」とし、社が受けるメリットを具体的に挙げた。

これに対し、労働者委は「時事通信でよく講演し、寄稿もする(外部の)人が自分にも記者証を出してくれと言われて(出すのかと言えば)出すわけがない」と指摘。時事通信に経済的メリットがあることが、国会記者証などの便宜を外部者に供与する正当な理由にはなりえないと強調した。

田崎氏は言うまでもなく、既に時事通信の社員ではなく、特別解説委員の肩書きもなくなった外部者である。報道機関としての時事通信に割り当てられた国会記者証やバッジ、国会記者会館の記者室などを田崎氏に貸与したのは、時事通信が自己の利益のために報道機関に与えられた公的制度を「私的に流用」したのと同義だ。また、時事通信の社員資格や肩書きを持たない田崎氏が、自身の利益のために、報道機関としての時事通信に付与された公的制度を利用することも私的流用に当たると指摘した。つまり、時事通信と田崎氏は持ちつ持たれつの関係で、公的制度を過去1年にわたり「私物化した」と指弾されても仕方ないのである。

国会記者証には記者個人の顔写真と氏名、所属社名が刷り込まれている。外部者である田崎氏が「時事通信」を名乗り、国会議事堂や政府内で堂々と取材するのは、制度の趣旨を著しく逸脱し、歪曲する行為以外の何ものでもない。

安倍政権を過剰なまでに擁護し、社に多数の抗議電話などが寄せられる原因となってきた田崎氏に時事通信を名乗られることは、報道機関としての恥である。我々の抗議の結果、ようやく「特別解説委員」の契約を解除したと思っていたが、社はその後もさらに恥の上塗りを重ねていた。労働者委は「有力コンテンツだから」田崎氏に国会記者証などを貸与してきたとする社に対し、「公のものを自分の会社のために私的に利用しているんです、と言っているのと一緒だ」と批判した。


2019年4月12日
団体交渉報告
大室社長、「法律順守」強調も具体策欠くー働き方改革法施行
労働者委「抽象論は歯止めにならない」
社提案の「裁量労働制」に改めて反対

時事通信労働者委員会は4月12日、改正労働基準法など「働き方改革関連法」が同月から施行されたことを受け、大室真生・時事通信社長が出席する団体交渉を社と開催した。記者の長時間労働が常態化する中、どのように法律を順守していくのか考え方をただしたが、社側の説明は具体性を欠いた。

◼️踏み込み不足の労働時間削減策
改正労基法は時間外勤務の上限を原則1カ月当たり45時間、例外に限り同60時間などとする内容で、記者の労働実態に照らすと、順守は容易でない。労働者委は「劇的な体制の見直しが必要となる」と指摘し、大室社長に取り組みをただした。

大室社長は「会社として法規をきちんと順守する方針」と表明。その上で、(1)従業員の健康維持の観点から、長時間労働是正に取り組み、時間外労働規制を順守する (2)休日・時短休の消化を徹底し、やむを得ず出勤した場合は2週間以内に代休を取得する。年次有給休暇は1年5日以上必ず取得する(3)労働時間の短縮、負担軽減を図るため、(公人に自宅などで夜間に取材する)「夜回り」など取材の在り方も含めて適正化、効率化に向けて見直しを行い、随時実行に移す (4)裁量労働制を導入した場合でも出退勤管理の新システムを通じて労働時間の把握を続け、みなし労働時間の水準に収まるよう努める (5)ノー残業デーを月1回以上実施するーーと説明した。

このほか、編集局の方針として (1)法令を順守し、違法な長時間労働は行わない (2)繁忙職場においてはこれまでの常識にとらわれることなく仕事のやり方を根本から見直すことによって(残業時間の)上限規制に対応する (3)仕事を一律に削減することは難しいが、その日の仕事の優先順位を見極め、不要不急の案件は翌日以降に回すなどケースごとに柔軟に行う (4)過剰なサービスや読者ニーズの低いコンテンツは費用対効果や読者への影響を勘案した上で、廃止または大幅な圧縮商談をするーーなどを挙げた。

◼️抜本的な発想転換、人員増が不可欠
記者が政府・企業幹部などの自宅で夜間に接触し取材する「夜回り」の常態化は長時間労働の温床になる。夜回りについて大室社長は「緊急かつ重大な取材案件が生じた場合であり、取材対象者に自宅で接触する以外に情報の入手や確認が見込めない場合、または所属長が必要と判断した場合を除き、原則として行わない」とした。

これに対し、労働者委が「今の基準と何の変わりもないのではないか」と疑問を呈すると、大室社長は「本当は所属長に許可を得るのが原則だが、実態は自分の判断で回していると思う。それとは違う」と答えた。労働者委はさらに「所属長が全責任を持って残ってウオッチするということか」とただしたが、大室社長は「残ってウオッチすることとイコールではない」と述べた。

現状では、記者が夜回りに行く場合、その旨をデスクに伝えるケースがほとんど。労働者委は事件・事故などの緊急事態や、企業のトップ人事の決定・発表が近づいているなどの状況に対応するため、「働き方改革関連法の規定より(時間外労働が)多くなっている」ことを指摘。「抽象論ではほとんど歯止めにならない」とし、具体性を欠く社の説明に重大な疑問を示した。

さらに「きちんと労働基準法を重視するのであれば、人を増やすことも考えなければいけない」とし、現場記者の人数を増やすよう求めた。

これに対し社長は、政治部で首相の動向を取材する「首相番」の担当者を4人から6人に増やし、取材時間を深夜0時までから午後10時までに繰り上げたことや、労働時間の管理をしやすくする社内の出退勤管理システムの改修についても説明した。しかし、単に首相番の対象範囲を広げるだけで、全体として人員を増やさなければ、どこかにしわ寄せがいくにすぎない。社長が説明した抽象的かつ小手先の対応では、改正労基法は乗り切れない。抜本的ƒな発想の転換と、人員増が不可欠である。

◼️裁量労働制は長時間労働の隠れみの
一方、社は記者を対象とする「裁量労働制」を提案中だ。労働者委はこれについて「必要がない」と重ねて反対した。社長は「ご主張は存じ上げているが、会社としては新聞記者の働き方に適した制度であると考えているので、導入したいと考えている」と言い放った。

社の裁量労働制案は、各記者クラブごとの残業の実態を踏まえ、繁忙職場では「毎月55時間」などの残業をしたとみなすもの。「原則月45時間、例外に限り同60時間」とする現行法の趣旨を著しく踏みにじる脱法行為であり、長時間労働の隠れみの以外の何ものでもない。労働者委はただちに「記者の労働形態に合っていない」と抗議。社長はここで団交から退席したが、労働者委はその後も中村恒夫常務・労務担当取締役に対し「把握した時間で給料を払えば良いだけだ」と強調し、「法律を順守する体制を確立するためにも、むしろ導入しない方がよい」と改めて同制度に強く反対した。


2018年12月18日
団体交渉報告

記者の裁量労働制導入に反対―労働者委
社の開示データで寒々しい残業実態明らかに
違法状態温存は「働き方改革」の本質に逆行


時事通信社は2018年12月18日の団体交渉で、時事通信労働者委員会に対し、記者職の従業員を対象とする「裁量労働制」に関する協定の修正案を示した。同制度は実際に記者が働いた時間にかかわらず、あらかじめ職場ごとに定めた「みなし労働時間」勤務したものとし、対応する賃金を支払う内容。13年8月に最初の提案があったが、労働者委は当初から反対。職場の理解も得られず、導入に至っていない。

社の協定修正案によると、記者クラブや取材拠点ごとの職場を労働時間が長い順に「特A」「A」「B」「C」「D」「E」「F」にグループ分けし、みなし労働時間を設定。今回の見直し提案で、職場のグループ分けの割り振りや、みなし労働時間の数字を変更した。

この結果、グループごとの1カ月当たりのみなし残業時間は、特A(政治部の野党クラブ以外の記者クラブ、社会部の警視庁、検察の記者クラブ)が55時間、A(政治部の野党。社会部の警察庁、司法など)55時間、B(経済部の財界、日銀、内閣府、財務省など。運動部のプロ野球、ゴルフ以外など)33時間、C(内政部の総務、厚労、国交省など)22時間、D(文化特信部、大阪・名古屋支社の警察以外など地方の支社、総局など)16.5時間、E(横浜、千葉などの地方総支局)11時間、F(経済部の一部や水産部、その他の地方支局)5.5時間だった。

さらに修正案は、特Aに対しては社員の五つの等級に応じて月9万円~5万円、それに以外のグループには月5万5000円~3万5000円の調整手当を支給するとした。

グループごとの労働時間はBが前回提案(27.5時間)よりも増えているが、各グループの見直しを行った結果、みなし労働時間の長いクラブから短いクラブに「格下げ」する記者クラブや取材拠点が続出したため、多くの職場で前回提案時よりも労働時間が短く算定されている。

中村恒夫常務・労務担当は「この5年間、超勤時間がおしなべて下降傾向にあり、実態を踏まえて変更した」と説明した。

さらに社側は「法律上、月当たりの残業時間を55時間以上に設定できない。これまでの残業代に比べて収入の減りが激しい部分がある」として、調整手当を支給するのは収入の穴埋めのためであることを明らかにした。金額は月20~30時間の残業代に相当し、これにより、人件費は全体で2割増えるとした。

多くの職場でみなし残業時間を減らした根拠として、編集局の各部と地方の支社、総支局の過去の1カ月当たりの「平均超勤時間」を示した。主なものを見ると、政治部は12年4月~13年3月の99時間から17年8月~18年7月の87時間に、社会部は74時間から58時間に、経済部は55時間から38時間にそれぞれ減少した。

労働者委は、実態の全容をつかむため、記者クラブ・取材拠点ごとの具体的な労働時間の記録を示すよう求めたが、社はこれを拒否した。

それにしても社が開示した労働時間のデータは心胆寒からしめるものである。特に政治部の直近の残業時間である月87時間は、過労死ラインと言われる月80時間を優に超え、年間に直すと1044時間にもなる。社会部、経済部も繁忙を極める記者クラブや取材拠点の労働実態は政治部に準じる過酷なものであることは容易に想像できる。言葉通りの「殺人的」状況に置かれている。

こうした労働環境は、改正労基法の施行によって今年4月導入される時間外労働の上限規制(月45時間、年360時間を原則とし、特別な事情があっても年720時間まで、単月で月100時間未満、2~6カ月で平均80時間以内)に明らかに違反する。

社が裁量労働制を導入する意図は明らかである。抜本的に残業時間を減らして改正労基法に適応する道を放棄し、現在の単純労働時間制を止め、裁量労働制を導入することで違法行為が明確になることを回避しようとしているのである。つまり現実の問題点を是正するのではなく、制度を変えることで違法状態を糊塗し、温存しようとしているのではないか。労働者委は「これは事実上の脱法行為ではないか」と指摘し、「残業を減らすのが趣旨であれば、各職場で現行制度のまま、始業時間と終業時間をきちっと記録し、残業を減らす努力を図るべきだ」と社に迫った。

これに対し、社は「労働時間の把握をやめるわけではなく、(制度案は)労働基準監督署のお墨付きを得ている」と主張。「事実上の脱法行為」との指摘には「見解の相違だ」と言い張り、突っぱねた。

社がこのような制度案を職場に押しつけようとする行為は言語道断である。長時間労働の是正など「働き方改革」の本質とは無関係であり、むしろ逆行する暴挙と言わざるを得ない。

労働者委は裁量労働制の導入に強く反対する。労働時間をあいまいにする裁量労働制に移行すれば、いずれ過労死が現実のものになるのは必至である。団交で労働者委は、労働時間を削減するため取り組むべき改革の一例として「政治家に長時間くっついているような取材はむしろ日本の政治とジャーナリズムを悪くしており、やめさせた方がよほど良いのではないか」と指摘した。また、体力が落ちても知力と経験、人脈を駆使して、キャリアの最後まで記者として仕事を全うできる人材の活用を行うよう社に求めた。改正労基法の施行を機に、社は記者の取材や仕事の内容を抜本的に見直し、報道機関としてのレベルアップを図るべきである。それなくして、赤字経営と事業先細りの螺旋からの脱却、時事通信の再生はない。


2018年12月6日
団体交渉報告
12億円超の大幅営業赤字、売上高84億円に減少
格差拡大の新賃金制度、破たん明らかー18年度中間決算
社「低評価社員のやる気向上が課題」、組合「即刻廃止を」


時事通信社は12月6日、時事通信労働者委員会との団体交渉で、2018年度中間決算(4〜9月期)の業績を説明した。売上高は金融情報サービスを中心に通信収入が落ち込んだことなどにより、前年同期比1.7%減の84億円、営業損益は12億4500万円の赤字(前年同期9億5500万円の赤字)、経常損益は4億700万円の赤字(同1億5100万円の赤字)、純損益は3億9200万円の赤字(同3億9100万円の赤字)となり、業績は大幅に悪化した。

社は2015年10月、労働者委の強い反対を押し切り、社内の賃金格差を大幅に広げ、中高年の一般社員の給料を大幅に減額する人事・給与制度「役割等級制度」を強行実施した。社業の活性化につなげるなどとしていたが、制度導入から3年にして業績は減収と巨額の損失拡大という体たらくである。

こうした経営状況を背景に、労働者委の冬季一時金要求に対する社の回答は、基本給の1.36カ月分をベースとし、これに役割等級制度に基づく前年の職務評定結果に応じて1.2~0.8を掛けた額を支給する内容。減額される社員は最大2割の大幅カットを受け、支給額に1.5倍もの格差が生じる状態が続いている。労働者委はこうした一時金回答に強く抗議し、労働者委が要求する年齢別一律の賃金体系に基づいて抜本的に見直し、修正・再回答するよう要求した。

この格差が及ぼす生活への影響は甚大である。労働者委はかねてから「減額は非行をして処罰されるのと同じだ」と批判。近年、社が大株主となっている電通が配当水準を大幅に引き上げていることにも触れ、「電通株の配当が10億円前後増えてなお赤字経営をやっている経営者が、なぜ人の賃金をカットするのか」と徹底的に抗議してきた。しかも、この役割等級制度は人事評価の結果をSS〜Eまで7段階の総合評語などで社員に通知するが、評価項目ごとの配点は知らされず、社員にとってはどこがどのように悪かったのか、あるいは良かったのか分からない仕組みになっている。制度は著しく透明性を欠いており、ほとんどの社員は減額に納得していない。

労働者委が団交で実施から3年を経た役割等級制度の運営について「うまく行っているのか」と質すと、中村恒夫常務・労務担当は「定着している」と述べるとともに、「評定の低い人のモチベーションをどう上げるかは課題になっている」と語った。

中村労担の発言は、低い評価を受けた社員がやる気を失っていることを認めたものだ。それはそうだろう。これほどまでに過酷な賃金格差の給与体系を実行し、幹部社員が高給を食んでいるにもかかわらず、売り上げの15%に匹敵する巨額の営業赤字を出しているのである。低評価された一般社員がどうしてやる気を出せるのというか。しかも、幹部社員に対する高評価を下しているのは、経営責任を負う取締役会である。これで役割等級制度が「定着している」などと強弁するのは、見当外れもはなはだしい。労働者委はじめこの制度の廃止を求める従業員の声を単に無視しているに過ぎないからだ。

一連の中村労担の発言には呆れるばかりである。現取締役会が課題を克服する方法を見つけ、実行する能力があるとは到底思えない。「どうせ社の経営陣と幹部社員には無理」との諦めムードが社内に共有されるのは必定である。時事通信は今後、モラルハザードが深化し、社員の士気はますます下がり、業績の押し下げ要因として機能し続けることだろう。

これを食い止め、経営危機から脱却するためにも、基本給や一時金に甚大な格差をつける、不当な役割等級制度は、即刻廃止するほかないのである。


2018年7月5日
「電通株依存」の経営を徹底批判
大室社長、3年ぶり経常赤字に打開策示せず
遅きに失した田崎特別解説委員の契約打ち切りに抗議ー労働者委


時事通信労働者委員会は7月5日、社と団体交渉を行い、大室真生社長が出席した。大室氏は時事通信が2017年度に経常損益が3年ぶりの赤字に陥ったことについて「社員には頑張っていただいたが、最終的に私の責任で赤字になった。申し訳ない」と述べて陳謝した。労働者委は社の経営が2015、16両年度に経常黒字を確保していたとはいえ、電通株の配当増に依存するものだったと指摘。「経営の実態は決して良くなっていない」とクギを刺し、「巨額の営業赤字からの脱却」という本来の課題を直視して経営に取り組むよう求めた。

また社は、田崎史郎・時事通信特別解説委員との契約を6月末で打ち切ったことを明らかにした。大室氏はその理由について田崎氏の年齢が内規で定める同ポストの上限の68歳に達したことを挙げた。田崎氏は、テレビを中心に安倍政権寄りに偏向した言論活動を行い、社内外から批判が絶えず、労働者委が早急に解任するよう要求してきた。労働者委は、遅きに失した社の対応に強く抗議した。

社は今年6月に策定した新たな中期経営計画(2018~2020年度)で「安定的な経常黒字を実現」することを経営目標の柱の一つに掲げた。社の業績は2015年度、電通株の受取配当金が19億円と、前年度に比べ約13億円増加した。この結果、同年度決算は売上高が前年度比1.0%減の177億1800万円、営業損益は16億3600万円と依然として高水準の赤字だったにも関わらず、経常損益はようやく3億3700万円の黒字となり、長年の赤字からわずかに水面上に浮上した。2016年度以降も配当金は2014年度比約10億円高い水準が続いてきたものの、2017年度は売上高が2015年度を下回る176億4100万円に減少、営業損益は3年ぶりに2000万円の赤字に転落した。

社によると、2018年度も減収と経常損失の拡大が続く見通し。労働者委が「『安定的な経常黒字』を目指すと言っていて、こんなに赤字になるのか」と質したのに対し、大室氏は「特にメガバンクの経営環境から(金融機関向け情報サービスの)減額要請があり、厳しい」と釈明。2019年度以降は経常黒字化すると述べたが、その道筋の説明は具体性を欠いた。

本業のもうけを示す営業損益は依然、巨額の赤字を続けている。労働者委は「経常損益段階で10億円単位の上乗せ要因がありながら、赤字を計上した責任は重い」と経営責任を追及した。社が策定した中期計画では、今後も同程度の配当金収入を見込んでいる。労働者委は「営業黒字にするにはどうするのか課題を直視し、もう1回計画を作り直すべきだ」と求めたが、大室氏はこれを拒否した。

一方、田崎氏との契約を打ち切ったことについて、大室氏は「内規で定める満68歳に達したため」と説明、さらに特別解説委員の上限年齢68歳は社長の上限年齢と同じであることを明らかにした。これは常務や一般取締役の上限年齢を上回っており、特別解説委員というポストの重さを示唆するもので、こうしたポストに中立・公正を疑われる人物を据えたことは、権力を監視すべき報道機関として致命的な失策であり、取締役会の責任は極めて重い。

社は中期経営計画で、「中立・公正で偏らない報道に徹する」とする基本方針を掲げた。労働者委は「(田崎氏の言論活動が)時事通信を傷つけたとの反省の上に、『中立・公正』と謳ったのか」と質したが、大室氏は「それは全く関係ありません」と否定した。田崎氏のテレビなどでの言論についてどう考えるか質すと、「私が見ている時は問題なかった」などと釈明した。田崎氏の言論活動については時事通信に多くの苦情が寄せられ、編集局などでは応じ切れないため、苦情処理窓口を社長室に移したほどだ。労働者委は、田崎氏に社の正式ポストである「解説委員」を上回るかのような「特別解説委員」なるポストを与え、国会記者会館での記者室の使用などの便宜供与をしてきた社の対応を問題視し、早急に特別解説委員を解任するよう要求してきた。内規の上限年齢満了まで契約を続けてきた社に対し、労働者委は抗議した。

社が労働者委の夏季一時金要求に対して示した回答は、基本給の1.36カ月分をベースとし、これに新人事制度「役割等級制度」に基づく前年の職務評定結果に応じて1.2~0.8を掛けた額を支給する内容。減額される社員は最大2割の大幅カットを受け、支給額に1.5倍もの格差が生じることになる。

これが及ぼす生活への影響は甚大である。労働者委は「減額は非行をして処罰されるのと同じだ」と抗議。「電通株の配当が10億円単位で増えてなお赤字経営をやっている経営者が、なぜ人の賃金をカットするのか」と疑義を呈した。さらに、制度上、社員に知らされるのは職務評定の最終的な結果のみで、内訳の配点などは開示されず、著しく透明性を欠いており、ほとんどの社員は減額に納得していない。労働者委は社に対し、一時金に甚大な格差をつける不当な賃金制度を即刻、廃止するよう強く求めた。


団体交渉報告
2018年6月13日

19年連続営業赤字、4年ぶり減収:社の2017年度決算
労担「人事制度は業績良くするためでない」と強弁
労働者委、西沢前社長の顧問就任に反対


時事通信労働者委員会は6月13日、2018年春闘要求などをテーマに時事通信社と団体交渉を開催した。社は労働者委の反対にも関わらず2015年秋に強行実施した、中高年一般社員の収入を引き下げ、社員間の賃金格差を大幅に拡大する賃金・人事制度「役割等級制度」の廃止をはじめ、労働者委の要求にことごとくゼロ回答で応じた。
社は2017年度 の業績について、売上高が銀行大手に対する情報サービスの落ち込みを主因に、前年度比2.0%減で4年ぶり減収の176億円となり、営業損益は16億9100万円の巨額損失を計上したことを明らかにした。売上高はバブル崩壊後で最低だった13年度(176億円)と同水準。営業赤字は19年連続で、赤字幅は同1億7800万円悪化した。

経常損益は保有する電通株の配当金が13億円程度あったものの、2000万円の損失となり、3年ぶりの赤字に転落した。

社は役割等級制度の実施により、社業を活性化させると高らかに喧伝してきた。労働者委が「新人事制度を導入したのにどうして業績がこんな体たらくなのか」と質すと、中村恒夫取締役労務担当は「(人事)制度は業績を良くするために導入したわけではない」と強弁した。労働者委は驚きを禁じ得ず、「(仮に新制度によって)会社が活性化しても業績につなげられないとすれば、取締役会がよほど愚鈍だということにしかならない」と追及したが、中村氏は「業績が悪化したのは取締役会の責任だ」と認める一方、「あくまで成果を残した人に報いる制度であり、人事制度と業績は連動しない」と繰り返した。

社は人事制度の見直しで、中高年の一般社員の給与を大幅に切り下げ、さらに評定結果によって賞与の支給額を増減させる仕組みを強行した。社の経営陣は役割等級制度を核とする人事制度に基づいて昇格した者が務めており、社員を評価し、その所得に大幅な格差をつけている張本人が業績を悪化させている事実こそ、制度の破綻を物語っている。

役割等級制度における人事評定のプロセスは極めて不透明であり、収入格差の拡大には大部分の社員が納得していない。労働者委は、同制度を即時撤廃し、年齢別一律給を基礎とする人事・給与制度に移行するよう改めて求めた。

一方、この日の団交で、社は、同制度の実施を当時の社長として強引に進めた西沢豊前社長を顧問に就かせる人事を検討していることを明らかにした。西沢氏は、社が2010年度の全期間において「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)を締結しないまま、従業員に時間外労働や休日労働を行わせた当時の労務担当取締役で、順法精神が著しく欠如している。団交の場でも、組合代表を「お前」呼ばわりする暴言を吐くなど、「社の顔」としての役割が求められる顧問として不適格であることは明白だ。労働者委は、西沢氏を顧問とする人事案に強く反対し、即座に撤回するよう要求した。


団体交渉報告
2017年7月19日

田崎氏の「特別解説委員」打ち切り要求 労働者委
社、「考えなければいけない」検討を表明
目に余る政権寄り言論、「時事通信の恥」
夏季一時金、8年連続の超低水準に抗議

機関紙「IMAGE(イマージュ)」紙バージョン
(社側とのやりとり一部掲載)


時事通信労働者委員会は7月19日、時事通信社と団体交渉を開いた。団交では、時事通信の政治部記者・次長などを経て解説委員を最後に退社し、現在、テレビや新聞、書籍で「時事通信特別解説委員」の肩書きを使用している田崎史郎氏の扱いや、夏季一時金などをめぐり社と協議・交渉した。労働者委は、田崎氏の言論活動が安倍政権にあまりに近いと巷間受け止められ、実際に政権寄りと認められると指摘。最近のテレビでの言論活動などを具体的に紹介し、目に余る田崎氏の権力べったりの姿勢は「時事通信の恥」だと批判した。その上で「あたかも時事通信社が政権寄りと受け止められかねない」「政権にあまりにも近いと言われるのは報道機関として致命的だ」と強調。「この肩書きはやめてもらうべきだ」と田崎氏の処遇を打ち切るよう求めた。

これに対し、中村恒夫労務担当取締役は田崎氏の扱いについて「考えなければいけないことだと思う」と述べ、社としても今後、特別解説委員の打ち切りについて検討する考えを示した。

労働者委はまず、「時事通信特別解説委員」の肩書きを持つ田崎氏と社との関係について中村労担に質問した。

中村労担は、田崎氏が60歳で定年退職した後、65歳までのシニア嘱託社員も既に終え、現在67歳となっており、社と田崎氏との間に「雇用関係は特にない」ことを明らかにした。また「特別解説委員」は社の内規で定めており、「会社が認めた者」に限り名乗ることを認めるもので、田崎氏が65歳を過ぎた約2年前から設け、田崎氏は特別解説委員の「第1号」となっていると説明。また、社は給与や報酬を支給しない一方で、国会記者会館のスペース使用や記者証などの便宜供与を行っていることを認めた。さらに、関連会社の「内外情勢調査会」が開く講演会で首相が講演する際に依頼する役割も担っていると語った。

労働者委は、社の従業員でもない者が時事通信の名称と、就業規則上の定めがない「特別解説委員」なる肩書きを使い、あたかも時事通信を代表しているが如きに取材し、言論活動を展開していることに「それは不明朗だ」と指摘した。さらに、内規の開示を求めたが、社はこれを拒否した。

テレビや雑誌、さらには時事通信のメディアでも「時事通信特別解説委員」として言論活動をしているにもかかわらず、労働組合に対し「特別解説委員」に関する内規を開示しないのは常軌を逸している。

労働者委が、社と田崎氏が直接の雇用関係を持たなくとも、田崎氏が「特別解説委員」の肩書きを名乗れば、社会からは時事を代表していると理解されると指摘すると、中村労担は「それはそうだろう。そう思うのは分かる」と語った。

さらに労働者委は、田崎氏の言説によって「時事通信は安倍政権寄りなのだと思われている」とし、「マスコミの役割は権力のチェックであり、政権にあまりにも近い会社だと言われることは報道機関として致命的だ」と問題点を明確にした。その上で「時事の肩書きを名乗るのはやめてもらうべきだ」と述べ、社に田崎氏との関係を解消するよう要求した。

これに対し、中村労担は「田崎特別解説委員の取り扱いについて労働者委員会から再考すべきだとの話があったことは承った」と応じた。その上で「どうするかというのは直ちには言えないが、今後の検討課題、検討課題と言ってはいけないのか、考えなきゃいけないことだと思う」と語り、田崎氏の特別解説委員打ち切りについて検討していく考えを表明した。

田崎氏の言論が過度に政権寄りとされることに関連し、中村労担は「(一般の人からの意見も)直接寄せられていないわけではない」とし、田崎氏の言論活動について時事通信に批判や抗議が寄せられている事実を明らかにした。また、一般論とした上で「政権というのは選挙の後にガラッと変わるものだ。一つの特定の政権につくと、ひっくり返った時にどうしようもないので、ビジネス上(のこと)を考えても好ましくない。もちろん報道機関的に好ましくないというのもある」との認識を示した。

一方、労働者委の夏季一時金要求に対し、社は基本給の1.345カ月分をベースとすると回答した。2016年度の経常損益が2期連続で黒字を確保したことなどを背景に、前年実績から0.01カ月分引き上げる。ただ、上げ幅は微々たるものに留まり、8年続く低水準に変わりはなく、社員の生活の苦しさは限界を超えている。労働者委は「水準があまりに低い」と抗議。「我々の要求にしたがい、増額回答すべきだ」と修正回答を求めた。

また社は17年4〜6月期の売上高が、利益額に影響しない契約体系の変更に伴う部分を除き、前年同期比で実質的に9000万円減となったことを明らかにした。顧客企業の統合や世論調査の受注減などが要因。半面、インターネットサイト「時事ドットコム」の広告や行政ニュースサービス「iJAMP」などは堅調に推移している。中村労担は通期の見通しについて「非常に厳しい状況にあるのは間違いない」と説明した。労働者委は社に対し、デジタル時代の新たな報道機関のビジョンと戦略を作り、抜本的に経営を立て直すよう要求。一般の人々を対象にした、報道機関ならではの生の資料・データの提供機能を併せ持つ本格的な総合ニュースサービスを創設するよう強く求めた。


団体交渉報告
2017年5月24日

新賃金制度の廃止拒否とベアゼロ回答に抗議
14億円の巨額営業で赤字責任追及 17年3月期
電通株売却益し不動産投資する社に警告


時事通信社は2017年春闘に関する5月24日の団体交渉で、時事通信労働者委員会に対し、賃金改定をめぐっては今期もベアゼロを回答するとともに、「年齢別本人給」を基礎とする賃金体系への移行と、2015年10月強行実施した新たな賃金・人事制度である「役割等級制度」廃止の要求をことごとく拒否した。労働者委は社の不当極まる賃金回答に「受け入れられない」と拒否。長年にわたるベアゼロ回答と役割等級制度への移行により、社員の給与はますます下がる一方であり、士気を損ねると抗議し、社に再回答を求めた。

社は春闘回答の背景説明として2017年3月期決算について説明した。売上高は前期比1.6%増の180億円と、わずかながら2期連続で増収となったものの、営業損益は14億4100万円の巨額な赤字を計上した。営業赤字は18期連続で、売上高の1割近くにもなる赤字幅は、本業が深刻な状態にあることを浮き彫りにした。

一方、経常損益は電通株の配当のおかげで前期に続きようやく2100万円(3億3700万円)の黒字となり、純損益もこれまた電通株の売却益によって25億円(2億6400万円)もの巨額な黒字になった。電通株の配当・売却益頼みの異常な経営体質はいまだに脱却できないどころか、ますますその色を濃くしている。

社は電通株の売却益で東京・中目黒の不動産物件(駅前のマンション)を購入した。中村恒夫取締役労務担当は「電通株と保有不動産の利回り比べ、不動産の方がはるかに利回りが高いため」と説明した。労働者委は物件の購入額を質したが、中村氏は「非開示」として答えなかった。巨額の営業赤字を出し、電通株の配当益でその穴埋めしている会社が、「虎の子」の同株を売って不慣れな不動産へ巨額投資し、高利運用を目論むなどもってのほかである。労働者委はこの不動産投資にこれまでも疑問を呈し、反対してきたが、重ねて社に警告・抗議した。

労働者委は電通株への依存経営を続ける大室取締役会の責任を追及した上で「14億円の営業赤字は依然深刻だ」と抗議、本業とかけ離れた不動産投資にうつつを抜かすのではなく、経営を立て直す抜本的な事業戦略を明示するよう改めて要求した。


団体交渉報告
2017年5月14日

社、大幅増員した専任部長の運用に失敗
新人事制度「設計に甘さ」認める
労働者委、賃金格差拡大に抗議

時事通信労働者委員会は4月24日、社が2015年10月に強行実施した人事制度「役割等級制度」における「専任部長」の勤務上の取り扱いについて団体交渉を行なった。社は制度開始時、出先記者が書く原稿を校正したり、出先と取材体制などを調整したりするデスク業務に当たる「次長」を廃止。部長級の専任部長を大幅に増やし、「2016年度まで」の経過措置として、輪番でデスクを担わせる方針を決め、「労働基準法上の管理監督者としては扱わない」として、職務手当に加え残業代も支給してきた。

しかし今年4月から就業規則を改定し、経過期間を「当分の間」に変更。労働者委は、新人事制度で一般社員に格下げしたデスクは基本給を大幅にカットし、職務手当を全面的に削減しながら、同様にデスク業務を行なう専任部長を手厚く処遇し、社内格差を拡大させている社に強く抗議。矛盾が露呈した新人事制度の即時廃止を重ねて要求した。

中村恒夫・取締役労務担当は団交で、輪番制のデスク業務を専任部長に続けさせていることについて「会社側の力不足」と語り、制度が社の想定した通りに進んでいない事実を認めた。その上で、「時事通信としての配信の仕事を続ける上でも、やってもらわざるをえないのが現実。規程を作った段階での見通しが甘かったと言われても仕方がない」と釈明し、導入当時の西沢取締役会の制度設計がずさんだったことに反省の弁を述べた。

社の説明によると、本社編集局の専任部長は現在、計25人。内訳は輪番でデスク業務に当たっている21人、活版(ニューズレター)の編集長3人などで、出稿各部の専任部長はほとんどが輪番デスクだ。労働者委は「本来は各部に何人いることを想定し、いつまでにその姿に移行する考えなのか」と質した。

中村労担は「専任部長はゼロというわけにはいかないが、減らしていく方向にはある」と回答。「期限を区切れるほどの見通しはなく、いつになるか分からない。はっきり言えないので、今回は期限を区切らない形で規程を変えた」と説明した。「経過期間」と言いながら、その期間がどの程度のものか見通しも立たないというのだから、驚きだ。中村労担が認めた通り、そもそもの制度設計に欠陥があったというほかない。

労働者委は、「部長級と言いつつデスクと同じ業務をやっているのであれば、専任部長の任を解いて早急に減らすか、残業代が職制手当を上回った部分についてのみ支給するようにしなければおかしい」と指摘した。中村労担は「部長と同格の地方支局長から本社に戻ってデスクワークを担当する場合があり、彼らの待遇を一気に変えることは困難だ」と弁明した。

社はまた、専任部長の職務手当の額が「月7万円台~9万円台」に上ることを明らかにした。さらに、その職務内容については「原稿の処理はあるが、例えば企画モノをやろう、という時に先陣を切ってやろうということ(を期待していた)」「経済部であれば『ビットコイン』問題を取材しようという時、誰の担当か分からない。日銀か流通か経産省か。そう言う時に誰かが主導的な役割をとる。例えば東芝問題で、誰が主体となるかと」「部における重大問題に取り組み、それを率いてもらうということだ」--などと述べた。

しかし、中村労担が言うような仕事は、専任部長が主たる業務としてやることだろうか。このような活動こそ、現場記者とデスクが日頃から考え、互いに意見を交わしながら、現場主導で進めていくべきではないのか。そもそも、これまでそうしてきたのではなかったのか。このような仕事のために敢えて専任部長を増やす必要がどこにあるだろう。中高年の一般社員の賃金を底上げし、生活を安定させた上で、ジャーナリズム活動への高い参画意識を促すことこそ優先事項であるはずだ。

社は新制度実施に伴い、基本給の体系を根本的に改めた。中高年の一般社員の基本給を激烈に引き下げる一方、幹部職制は大幅に引き上げた。生涯賃金でみた場合の社内格差は数千万円単位のオーダーで変化した。その上、部長級には月額7~9万円程度の職務手当を支払い、高水準の基本給をベースとする残業手当も支給するという。これで基本給を不当にもカットされた一般社員が納得するだろうか。部長級を過剰に厚遇するのでなく、その分を一般社員に回すべきではないのか。

社の報道活動を支えているのは一部の職制ではなく、現場で一つひとつの仕事を真面目にこなす一般社員であり、その士気の高い報道機関であってこそ高い創造性と活力を持つことができる。ポストや給料に格差を付ければ従業員がより働くようになり、業績が上がるなどという単純思考は根本的に誤っている。新人事制度は、労働者委がこれまで再三再四、指摘してきた通り、前西沢取締役会による時事通信の破壊行為以外の何物でもない。

労働者委は「一昨年から言っているが、新制度導入にかかる矛盾の一つであり、鳴り物入りで進めた人事制度の部長級についてこういうことが起きるのはどういうことか」と批判した。さらに「中高年は圧倒的に(賃金を)減らされている人が多い中、このようなことが起きるのは、人事制度の正当性を疑わしめるのに十分だ。早急に改善するというより、さっさと新制度をやめて原状回復すべきだ。格差をつければ業績が上がるなどいうことには絶対にならない」と抗議した。

一方、労働者委は団交で、社が専門契約社員などに関する就業規則を4月1日付で変更するとの提案を、もう一方の時事通信労働組合には2月初旬に提案しながら、労働者委には3月24日と、2カ月近く遅れて提案したことを厳重に抗議した。これは1999年に東京都地方労働委員会(現・東京都労働委員会)の場で、時事労組と団交で差別しないことを定めた「あっせん和解協定」違反である。

中村労担は「こういう事態に至り、申し訳ないと思います」と謝罪。「今後こういうことがないよう体制を見直し、チェックしますので、今回の件はご容赦願いたい」と再発防止を誓約した。



団体交渉報告
2016年12月1−9日

冬季一時金、7年続く超低水準に抗議―労働者委
透明性欠く賃金・人事制度の撤回を重ねて要求

時事通信労働者委員会は2016年12月1日と9日、社が2015年10月に労働者委の反対にも関わらず強行実施した人事・給与制度「役割等級制度」への対応や冬季一時金をテーマに団体交渉を行った。社はこの中で、今上期の業績について、依然として巨額の営業・経常赤字を続けたことを明らかにした。この結果、冬のボーナスは基本給の1.335カ月をベースとする超低水準にとどまった。

社はお手盛り賃金制度の強行により、幹部の給料を一方的にアップし、中高年を中心とする一般社員の所得を引き下げ、制度に反対する労働者委の声にも全く耳を傾けていない。労働者委は社の傲慢極まる態度に強く抗議した。

社によると、2016年9月中間決算は売上高がインターネット・サイト「時事ドットコム」の広告収入の回復などを受け前年同期比2.7%増収の89億円、営業損益は8億4400万円の赤字(前年同期は9億7300万円の赤字)、経常損益は2億200万円の赤字(3億100万円の赤字)だった。

社は保有する電通株を売却して17億円余りの特別利益を計上、純損益は13億5100万円の黒字(3億2200万円の赤字)だった。

超低額の一時金は7年続き、組合員の生活を強く圧迫している。到底容認できるものではなく、労働者委は抗議し、社員の努力により、わずかながら上期として2期ぶりに増収に転じたことを踏まえ、修正回答を行うよう求めた。


■人事評価過程の全面開示・労使交渉を要求

一方、社は今年11月、労働者委の荒木健次代表幹事と上仲保順代表幹事に対し、人事上の自己評価などを記載する「人事評価シート」を配布した。

労働者委は中高年の一般社員の賃金を大幅に引き下げ、生活を破壊する役割等級制度を一貫して反対してきた。自らの経営責任を棚上げし、社員の収入に格差を広げるこうした制度を強行してきた前西沢取締役会および現大室取締役会は文字通りの意味で「恥知らず」である。社は不当な不利益変更を強いる役割等級制度を即刻撤回すべきである。

労働者委が両日の団交で社と協議した結果、役割等級制度では、(1)人事評価シートに従業員本人が記載できるのは「就業状況」と「実績」に関する定性的な「自己評価、本人コメント」のみで、3次にわたる5段階評価の採点は直属の上司や幹部職制、取締役を入れた社の人事委員会が行う(2)人事評価シートは社に提出した後、まったく内容は開示されず、人事評価の結果だけが年度末に通知される--ことが判明した。

人事評価は、従業員の賃金および人事上の取り扱いを決定する、労働条件そのものである。労働条件は労使間の十分な協議によって決定せねばならず、社が一方的に決定することは許されてはならない。決定に至るプロセスすらも開示せず、労使交渉も拒絶する現行の人事評価制度は著しく不当であり、労組として到底受け入れられない。 

労働者委は「役割等級制度に基づく人事評価シートや面接は容認できない」と強調し、人事評価シートを社に返却した。その上で、人事評価については、少なくとも労使協議を経て決定するよう求め、労使協議の際に労働者委に戻し、内容を全面的に開示するよう要求した。


団体交渉報告
2016年11月2日
労働者委、不当労働行為問題などの解決を要求
大室社長、経営黒字化への道筋示せず
対話路線強調も不当人事制度の撤回拒否

時事通信労働者委員会は11月2日、時事通信社との間で、6月就任した大室真生社長(前常務労務担当)の出席を伴う団体交渉を開催した。労働者委との今後の労使関係について大室氏は「皆さんとの対話を重視する姿勢に変わりはない」と表明した。労働者委は「賃金差別問題をはじめ社と我々の間にはさまざまな問題が存在しており、引き続き話し合いによる解決を切に求める」とし、労働者委に対する賃金差別や不当労働行為問題など山積する課題を解決するよう要求した。

労働者委はまず、社が昨年10月、労使協定を一方的に破棄し、重大な不利益変更を伴う新たな賃金・人事制度「役割等級制度」を強行したことに抗議し、人事制度に関する考えをただした。大室氏は「制度の円滑な運用と定着に努力する」とあくまでも制度を変えない傲慢な態度を示す一方で、「制度に関しご意見があれば真摯に耳を傾けていきたい」と述べる白々しい回答を行った。労働者委は「この制度には(社の)提案時から言ってきた通り多くの問題があり、やればやるほど時事の衰退を早める」と批判し、即時撤回を強く求めた。

また月刊誌「文藝春秋」が7月号で、「読売新聞が時事通信を吸収合併する」との可能性を報じたことについて、大室氏の認識と同誌への対応について質問した。大室氏は「(報道は)根拠のない憶測」とし、抗議など特段の措置は取っていないことを明らかにした。労働者委は「そうであれば社として行動し、公式見解として否定する必要がある。世の中から見れば、何も言わなかったとしか見えない」と指摘、社としての見解・姿勢を社内外に明確にするよう求めた。それでも大室氏は「論評に値しない記事」などとし、対抗措置を取らないことを正当化する言動に終始したため、労働者委は抗議した。

社は2016年3月期まで17期連続で営業赤字を続けてきた。大室氏は今期(17年3月期)について、売上高178億円、経常損益で5億円余りの赤字との見通しを示すとともに、「上半期の売上高は前年を上回ったとみられる」と述べた。さらに現在の進捗状況に関しては「大きな上振れ、下振れの要因が起きている状況とは認識していない」と説明した。

社の今期の営業損益は18億円の赤字の見通しだ。労働者委が「経営においては本業の営業損益を重視すべきだ」と指摘し、どう黒字化するのか方針を明確にするよう求めた。これに対し、大室氏は「最終的には通信社本業での黒字を示すべきだが、ハードルが高い。まず第1段階として会社総体として経常段階で黒字にすることを目指し、その達成後に営業黒字を目指したい」と述べるのがやっとだった。今後の経営については「既存事業を底上げし、新規事業にも取り組み、新しい通信社像を設ける」とし、ニュースや出版、映像、デジタルなど既存コンテンツを企業や自治体のニーズに合わせて組み合わせ、提供するサービスに力を入れるとしたが、その説明ぶりは具体性と力強さに欠けた。

大室氏は、本業以外で、東京・中野の社宅を賃貸住居として運営し始めたのに続き、中目黒で賃貸事業を始めるため、マンションを購入したとし、電通株の売却と借り入れを財源に充てたことを明らかにした。「総務局総務部が担当し、実務は大手不動産系の企業に委託する」と説明したが、社内に不動産の専門家はいない。労働者委は得意分野でもない事業に電通株を売ってまで参入しようとする社の姿勢に重大なリスクが想定されることから強い疑義を呈した。

今年6月の株主総会で退任した西沢豊・前社長はその直後に相談役に就任した。西沢氏は自身が社長在任中の今年4月に就業規則の「職制規程」を変更し、「相談役」ポストの設置を決めた。これは「お手盛り」と言われても仕方のない人事である。この判断について大室氏は「日常的にアドバイスをいただき、内外情勢地調査会の会長としても活躍いただいている」と主張。西沢氏を相談役にした理由について「経営の継続性担保と、直前までの社長としての知見を生かしていただくため」と語った。

しかし、西沢氏は社長在任時代に大きな営業赤字を残したのであり、2016年3月期の経常黒字も、電通の決算期変更に伴う配当回数の増加と増配という特殊要因によって起きたに過ぎない。労働者委がこの点を指摘したが、大室氏は「経常黒字を達成したのも西沢さん。特殊要因があっても黒字にならないことはある」と強弁した。笑止千万とはこのことである。大室氏の西沢氏に対するゴマスリぶりは異常というほかなく、自身が社長であるとの認識が希薄なのではないかと疑わしめる。時事通信の再建はますます遠のいたと言わざるを得ない。


団体交渉報告
2016年7月8日

社、夏季一時金1.335カ月を回答
労働者委、新制度による格差拡大と低額回答に抗議
「増収経営、必須」中村新労担が表明

時事通信労働者委員会は7月8日、社と夏季一時金要求をテーマとする団体交渉を開いた。社は支給水準を基本給の1.335カ月(昨年1.3カ月)分をベースとする超低額回答を行った。一時金は長らく低水準が続き、社員が受忍できる限度を超えている。労働者委は低額回答に抗議し、修正回答を求めた。

社によると、支給総額は前年同期比900万円増の5億2100万円。社は昨年10月に強行実施した新賃金・人事制度の「役割等級制度」を今回から一時金にも反映させる。支給に際しては、評定結果が最高のSSから最低のEまでの7段階に応じて、SSとS=1.2、A=1.1、B=1.0、C =0.9、DとE=0.8の係数を乗じるとした。この結果、上位2ランクSSとSは、下位2ランクDとEの1.5倍にもなる。

制度上の係数はSS=1.4、E=0.6だが、今年度については移行措置として、社はSSとS、DとEをそれぞれ同じとし、1.2と0.8とした。社は来年度からは本来の制度に基づきSS=1.4、E=0.6とし、支給額に巨大な格差をつける方針を表明。そうなれば、最高ランクSSは最低ランクEの1.75倍にも達する。新制度によって、そもそも基本給に大きな格差が広がっており、一時金にまで強烈な格差をつける社の賃金政策によって、社内のモラルハザードが極限に達するのは必至だ。

一方で、社は2016年3月期まで17期連続で巨額の営業赤字を続けてきた。つまり、成果を全くあげられないばかりか、むしろ赤字により重い責任を負うべき社幹部が、裁量で社内の賃金格差を広げつつ、社内の富を自身により手厚く分配しているのだ。そこに一切の正当性はなく、制度の意義は根本から破綻している。

労働者委は、社が強行実施した、支給額の格差を広げる新賃金・人事制度に対し、「『働かない社員が多いせいで業績が悪く、彼らを徹底的に絞り上げることで業績が向上する』という考え方の上に成り立っている。そんなもので時事が良くなるか」と批判し、撤回するよう要求した。

これに対し、6月就任した中村恒夫取締役(労務担当)は「(社員を)絞り上げるという考え方は無い」と反論。今回の一時金支給水準について、2016年3月期にわずかに達成した売上高の増加を「社員に還元する」考え方に立ったと説明した。

また2016年3月期の決算で経常損益が黒字化した背景について「労働者委員会のホームページにも書かれていたが、(電通の決算期変更と増配に伴う配当収入の増加という)特殊な要因によるものだ」と指摘。「それが剥げると、経営の力不足で申し訳ないが、また経常黒字にするのは厳しい状況だ」と述べた。

中村氏は「今期以降に賞与支給額を経営悪化に伴い減らすことはできれば避けたい」とした上で、「当社のボーナスは業績連動型をはっきり組み込んでいるわけではなく、安定的な支給が考え方の底流にある」と理解を求めた。

さらに中村氏は社の経営について「ここ数年は過大な投資を圧縮し、収益を改善させることに努めてきたが、今後は投資するときには投資し、収入に力点を置いて危機的状況を脱することが必要だ」と強調した。「(危機を)脱することができなければ、厳しい将来が待ち構えている。労働者委が抱いている経営への危機感は、経営陣も共有している」とし、「(労務・総務担当兼務の取締役として)直接の事業(計画)には携わらないが、環境整備に取り組む」と語った。



団体交渉報告
2016年5月23日

社、格差広げる「役割等級制度」の廃止拒否
17期ぶりの経常黒字は電通株増配
続く巨額営業赤字に抗議=労働者委
大室労担の「定期昇給実施」は欺瞞的説明

時事通信労働者委員会は5月23日、社と2016年春闘要求について団体交渉を開いた。労働者委は社が2015年10月に強行実施した新賃金制度「役割等級制度」を廃止し、「年齢別本人給」を基礎とする賃金体系に移行し、支給水準を引き上げるよう求めたが、社は拒否すると回答した。

社の回答は、役割等級制度の強行を続けるとともに、新制度に移行しても依然としてベアゼロ。大室真生常務・労務担当は回答で、2016年度給与について、「定期昇給を実施する」と説明した。

しかし、これは疑問だ。役割等級制度では、基本給は年齢に応じて一律に支払われる「年齢別本人給」と、1~7等級の区分に応じた「役割給」で構成される。年齢別本人給は40歳で昇給がストップし、役割給は自動的に昇格する4等級社員は42歳で上限(22歳入社の場合)を迎え、それ以降は定年まで据え置かれる。5等級に昇格した社員(主要記者クラブのキャップ級)でも定昇は51歳で終わる。それ以降も定昇があるのは、部長級以上の6、7等級社員のみである。

荒木健次、上仲保順の労働者委両代表幹事は、5等級社員と4等級社員にそれぞれ位置づけられ、各等級の内訳で上限となる40号俸に達し、昇給は既にストップしている。それどころか、上仲代表幹事の場合、2015年10月から強行実施された同制度に基づく賃金は、それ以前の職能資格制度に基づく社の2015年度賃金回答と比べ、月額約2万5000円、年間換算で約30万円もの大幅賃下げとなった。2015年度は移行措置による補てんで実質的な支給額は据え置かれたが、16年度は昇格がない一方、補てん幅は半分に縮小するため、昇給どころか、逆に名実ともに賃下げの実施となる。

社がこのように多大な不利益変更を伴う賃金制度を組合の反対を押し切って強行しながら、労働者委との春闘団交で「定期昇給を実施する」などと説明するのは著しく誠実さを欠いており、欺瞞にほかならない。労働者委は強く抗議する。

一方、社は2015年度の決算を説明した。それによると、売上高は前期比0.1%増の177億円と2期連続の微増となったが、本業のもうけを示す営業損益は16億3600万円の赤字(前期は16億5215万円の赤字)で、実に17期連続の巨額損失を計上した。

経常損益は3億3700万円の黒字(前期は16億円5200万円の赤字)となり、17期ぶりの黒字を計上、純損益は2億8200万円の黒字(前期は9億8900万円の赤字)となった。社が経常損失と純損失を避けられた理由は、保有する電通株式の配当収入増にある。同社が増配するとともに、決算期変更に伴い配当を通常の年2回から3回としたためである。時事通信の本業が改善したからでは決してなく、「他力本願」かつ一時的な要因で黒字になったに過ぎない。西沢豊社長以下の経営陣が手腕を発揮した成果では全くない。

巨額の営業赤字が続く社の経営は、いわば多量の出血が依然として続いている状態にあり、これを一刻も早く止めなければ死あるのみだ。にもかかわらず、大室労担は「経営は改善している」などと言い張り、危機意識の欠如を露呈して恥じることはなかった。

労働者委は「改善しているなどとはとんでもないことだ」と抗議した。このような経営しかできない社幹部を厚遇し、その裁量による評定で社内の賃金格差を広げる役割等級制度の強行は、暴挙というほかない。社は同制度の実施を即座に停止し、労働者委の要求に基づき、年齢別本人給を基礎とする賃金体系に移行すべく、労使協議の場を設けるべきである。


団体交渉報告
2016年2月10日

労働者過半数代表者、1年不在明らかに
社、意見聴取なしで人事制度の改悪強行
順法精神欠如に強く抗議−−労働者委


時事通信労働者委員会は2月10日、社と団体交渉を開催した。社はこの中で、昨年4月から時事で働く従業員を代表する「過半数代表者」が不在だと明かした上で、今年2月24日から3月2日にかけ、代表者の選挙を社内の電子メールシステムを通じて実施することを提案してきた。社は昨年10月、給与格差を広げる新人事・給与制度「役割等級制度」を、労働者委の反対にも関わらず強行実施し、既に4カ月以上が経過した。労働基準法は、企業に対し、給与制度改定などに伴い就業規則を変更する場合、過半数代表者の意見を聴取し、労基署への制度変更届け出に添付するよう義務づけている。しかし、社はそもそも代表者が存在しないのを承知で、制度変更を強行していた。

労基法が定めるのは、企業が賃金規定など就業規則の変更を実施した場合、(1)労働者の過半数で組織する労働組合、またはこれが存在しない場合は労働者の過半数の代表者の意見を聴いた上で、(2)労働基準監督署に届け出るとともに、労働者に周知する——ことだ。

時事通信には現在、労働者委と、もう一方の時事通信労働組合という2つの労組があるが、いずれも過半数組合ではない。社の説明によると、過半数代表は、前任者の任期が昨年3月までの1年間で切れており、その後、不在状態となっている。社は労基法の規定を守ることができないことを認識しながら、制度変更を実行していたことになる。

そもそも労働者委は今年1月8日の団交で、社が新制度実施後も労基署に意見書を出していないことを確認した上で、労基法違反だと指摘した。これに対し、大室真生常務・労務担当は「(労基法を)順守している」「提出しないと言っているわけじゃなく、提出すると言ってますから」などと言い放った。ところが、労基法で義務づけられている、意見聴取の対象者である従業員代表の不在を知りながら、社員に多大な不利益変更をもたらす賃金制度の変更を一方的に実施したことが明らかになった。

この態度のどこが労基法を「順守している」ことになるのか。これでは違法行為の確信犯である。社の順法精神の欠如は甚だしく、全くもって論外だ。

労働者委は団交で「新人事制度を労基署に届ける際、意見を添付すべき従業員代表がいなかったということだ。いないことがわかっていながら、なぜ放置したのか」と質した。社は「準備ができれば極力早く選び、意見を出してもらうつもりだったが、想定より遅れてしまった。やろうとしたが、できなかったのが実態だ」と釈明した。労働者委は「従業員代表が居なくていいという認識は全くおかしい」と追及し、社の法軽視を強く批判した。


■秘密投票、守られず

また社は今回実施する過半数代表選挙について、空白状態を生じにくくするため、任期を前回の1年から改め、今年3月3日から18年3月2日までの2年と引き延ばすと説明した。

選挙方法については、各部の部長が記者クラブを回るなどし社員に投票を促した前回の「持ち回り方式」を廃止し、社が災害発生時に社員の安否を確認するため導入済みの電子メールシステムを使うとした。労務部が務める選挙事務局が、従業員宛ての社業用アドレスなどに投票用サイトのアドレスが掲載されたメールを送り、従業員が同サイトを通じて立候補者の信任・不信任を選び、送信する方法。有権者は役員を除く全従業員。立候補資格者は有権者のうち管理監督者を除く者で、5人の有権者から推薦署名を得た者。推薦人の氏名と立候補者の所見を社内公文書「全同文」で公表するとした。

前回のように、各部の部長が出先の記者クラブにいる社員記者ら1人ひとりを訪ね、用紙への記入を促すといった方式とは異なる。しかし、労務部が管理するシステムである以上、民主的な選挙に不可欠な「秘密投票の原則」は守られないことになる。

労働者委が「秘密投票が守られないのは問題ではないか」と疑問を呈したのに対し、社は「秘密投票が絶対要件とは解釈はされていないし、挙手などの方式も(一般的に)認められている」と述べ、問題はないとの認識を示した。

労働者委は、少なくとも投票の秘密を守るため、社が目的外閲覧を行わない旨誓約することや、制度上の工夫を行うよう要求。社は「システム上、難しい」と述べ、これを拒否した。

また社が前回選挙の際と同様、立候補の要件とした5人の推薦人について、労働者委は、少数派労組の立場から「必要ないのではないか」と改めて質した。しかし、社は「乱立を防ぐためだ」とし、推薦人を要件とするとの立場を崩さなかった。


2016年1月28日
社、新賃金制度の変更、労基署に届け出ず
労働者委の違法性指摘に「法順守」と居直り
新人事制度の非合理性を斬る

時事通信労働者委員会は1月8日、社が昨年10月から一方的に強行実施した賃金・人事制度や春闘要求に関する団体交渉を開いた。社はこの中で、「役割等級制度」の導入に伴い変更した就業規則を基準監督署に届け出ていないことを明らかにした。就業規則を変更した場合は労働基準法で届け出が義務づけられており、明らかな違法状態であり、社の順法精神欠如を強く物語る事実だ。労働者委が「違法行為だ」と指摘すると、社は「(労基法に)何カ月以内ということは書いていない」「(労基法を)順守している」と居直りの姿勢に終始した。

労基法は、常時10人以上労働者を働かせる企業に対し、賃金規定など就業規則の変更を実施した場合、(1)労働者の過半数で組織する労働組合、またはこれが存在しない場合は労働者の過半数の代表者の意見を聴いた上で、(2)労働基準監督署に届け出るとともに、労働者に周知する——ことを義務づけている。

違法だとの指摘に対し、社は「日程的に決まっているわけではないが、速やかに届け出る」と釈明した。労働者委が「既に3カ月以上が経っている」とし、「今は法律を守っている状態なのか」と追及すると、大室真生常務・労務担当は「そうです」と答え、「提出しないと言っているわけじゃなく、提出すると言ってますから」と開き直った。

社が就業規則の変更を届け出られないでいる理由は、はっきりしている。社は2013年度に新制度を提案した当初、14年度からの実施を目指すとしていたが、いったん先送りした。その後、15年度にも2度目の見送りを余儀なくされた。職場の理解を得られなかったからだ。15年10月にやむなく強行実施に踏み切ったが、制度の必要性、妥当性が説得力を持たないために、労働者委が反対していることはもちろん、もう一方の時事通信労働組合も、制度変更同意を機関決定しておらず、社は従業員代表の意見を添付することができていない。

労基法は、過半数労組または職場の過半数を占める労働者代表が反対する場合、企業はその意見を添付して変更届とともに提出しなければならない、と定めている。職場の理解を得られていない給与制度を奴隷に強制するように社員に命令で押しつけて、望ましい効果が期待できるわけがないのは普通の頭で考えれば、理解できることだ。まして時事通信は人権を何よりも擁護しなければならない報道機関である。社は自身のつくった制度が社員の賛同を得られていない現状があまりに恥ずかしく、労基署に制度変更を届け出ることができないでいるのだ。

労働者委はこのような社の対応について「法令に違反するようなことをやっちゃいけない。しかも、われわれの賃金に関することで、そういういい加減なことしかできないような制度の実施の仕方をしておいて。正式に組合の同意を取っていないからだ。とんでもないことだ」と抗議した。


■非科学的な評価の仕組み

社は新制度で、年度ごとの人事評定の結果を示す「総合評語」を以前の5段階から7段階に細分化し、全体に占める割合をそれぞれSS(5%)、S(10%)、A(20%)、B(30%)、C(20%)、D(10%)、E(5%)とした上で、賞与への反映度合いを拡大するとした。既に指摘した通り、その年度の個々の社員の働きぶりや、全体でみた仕事ぶりがどうであっても、常に評価結果を同じ割合に分布させる、という非現実的な設定であり、給与格差の自己目的化というほかない。

実際に学校で学力テストを実施するような場合でも、点数が上位から5%、10%、20%、30%、20%、10%、5%−−といった具合に分布するわけではない。それは職場においても同じだ。さらに、チームワークによって同業他社と競い、成果を出す報道機関の仕事にあっては、個々人の仕事を機械的手法で点数化し、賃金反映することは実質的に不可能である。


そもそも役割等級制度強行前の「職能資格制度」で導入した5段階評価自体に無理があった。社は評価が真ん中のCに集まる傾向を「中心化、寛大化」だとし、問題にした。

しかし、事実は逆である。実際には、社員の働きぶりと制度が想定する分布との乖離が著しかった。評価制度自体に無理があるため、現場で評価に携わる職制が運用によって評価を中心に近いところに集め、実態とかけ離れた制度の弊害を緩和してきたのだ。

大室労担は労働者委との2014年10月の団交で、新制度について「現実に立脚した評定制度を運営する」と強弁したが、労働者委が「現実に即すると何故、こういう数字になるのか。実態ではなく、作られた分布なのではないか」と疑問を呈すると、説明に窮して全く答えられなくなった。

社は非科学的で説明のつかない評価の仕組みを強行するため、昨秋以降、部長らと社員による面談まで実施することを決めたが(労働者委は人事制度自体について労使協議中であるため、面談への対応を留保)、これもさらなるウソの上塗りに過ぎない。社員にとっても、1次評価に携わる中間職制にとっても、雑務が増えるだけである。ただでさえ皆、忙しいのに、制度を正当化するために、評価される側とする側双方で無駄な仕事を増やし、全体の生産性を低下させているのだ。何たる愚行であろうか。

大室労担がひとつ覚えのように繰り返すのは、「仕事に報いる制度」というお題目のような「理念」。だが、5段階を7段階に細分化すれば、制度と実態とのかい離は一層大きくなる。このような非科学的仕組みで社員に正しく報いることができるわけがない。

そもそも記者1人ひとりには「良い記事を書いて世の中に貢献したい」「問題の本質に迫る新しい事実を誰よりも早く知り、人々に知らせたい」というアニマル・スピリットが宿っている。社に必要な施策があるとすれば、これを解放すること、これ「のみ」であると言ってよい。仕事に報いるためには、社員のライフ・ステージに応じた収入を長期的に保証することだ。記者も営業マンもエンジニアも、それによって「今、頑張ろう」という気持ちになるのだ。そして労使の不断の努力により、賃金水準を、仮に少しずつであっても、上げていくことが望ましい。労働者委が長年にわたって要求している「年齢別一律給」を基礎とする体系が報道機関には最もふさわしいのである。


■違法状態での強行が組織を破壊する

役割等級制度の強行実施は、就業規則よりも労働協約が優先することを定めた労働組合法や労基法などに違反するだけでなく、中高年の一般社員に対する常軌を逸した賃下げの不利益変更を伴う点で、労働契約法にも明確に違反している。言うまでもなく、このような違法性は偶然に起きるわけでも、軽視してよいわけでもない。

米国のジョージ・W・ブッシュ政権は2003年のイラク侵攻を前に、フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っていると主張し、武力行使のお墨付きとなる国連安全保障理事会の決議を得ようと画策した。その背景には、中東の中心に位置するイラクの政権を打倒し、民主化と市場主義経済を根付かせれば、それがドミノのように中東一帯に広がり、イスラム主義テロを撲滅できる、という新保守主義(ネオコン)による「理念」があった。しかしこの「理念」自体が実態からかけ離れた絵空事であったばかりか、米政権はそれを実現するための戦略と実力を欠いており、開戦理由と位置づけた大量破壊兵器疑惑も十分な証拠を示すことができなかった。そもそもの開戦自体に理由が乏しかったため、多くの国が賛同せず、米国は国連決議を得られなかった。

ブッシュ政権は決議なしで英国など「有志連合」を率いて強引にイラクに侵攻し、フセイン政権は打倒されたが、その後、現地側でも、有志連合側でも多数の命が犠牲となったことは周知の通りである。米国は巨額の戦費を費やした挙げ句に目的を達成できず、国民の疲弊と自信喪失を招いた。さらにイラク周辺地域は真の意味で混沌に陥り、イスラム過激組織によるテロは拡散し、今日に至っている。

翻って時事通信の現状を見る。賃金制度は労使関係の要諦だ。「仕事に報いる」という理念がもし仮に正しいとしても、「役割等級制度」がそれをもたらすと信用できる理由はどこにもない。社が職場の理解を得られないのは、このためだ。違法な制度の強行は、社の将来に大きな禍根を残すこと必定である。社はいったん新制度の実施を凍結し、労使で納得いくまであるべき仕組みについて協議し、制度内容を再構築し直した上で、実施し直すべきである。